2 雑感
会社法を学んできた者にとっては、監査役の独立性は大変重要なものとされています。
しかし、天馬の件では、不祥事に関与した取締役の責任を追及する訴訟を提起した監査等委員が、現経営陣によって会社を追われました。
もちろん、最終的に監査等委員である取締役を選任する権限を有するのは株主総会です。株主が決めたのだからしょうがないとのご意見もあるかもしれません。
しかし、支配株主であれば何をしても許されるわけではないはずです。
本件で、法律的に少し気になった点が二つあります。
一つは、天馬の株主総会招集通知には、監査等委員会による選任議案に対する取締役会の反対意見が記載されていたことです。
20210604.pdf (tenmacorp.co.jp)
上場会社の株主総会招集通知は厚みがあります。会社法上、株主総会参考書類の記載事項が多く定められているからです。例えば、先に述べた株主提案であれば、会社法施行規則93条に株主総会参考書類記載事項が列挙されています。そして、株主提案議案に対する取締役会の意見についても記載が求められています(同条1項2号)。
ところが、監査等委員会による選任議案については、株主総会参考書類にその旨記載することは求められていますが(会社法施行規則74条の3第1項4号)、取締役会の意見の記載については求められていません(同条参照)。
監査役選任に関する監査役(会)の提案権について、今を煌めく田中亘先生もその著書で、「つまり、実質的には、監査役は、誰を後任として株主総会に諮るかを決定する権限を持つことになる。監査役の選任プロセスを経営陣が支配することを防ぎ、監査役の独立性を確保するための措置である。」と記しています(田中亘「会社法 第3版」298頁〔東京大学出版会・2021〕)。また、私の恩師である近藤光男先生は、同意権と提案権につき、「これらの規定は、事実上監査役の選任が代表取締役の意向で決まることを防止する効果をもつものと思われる。」(近藤光男「最新株式会社法 第9版」311頁〔中央経済社・2020〕)とし、会社法の巨人江頭憲治郎先生は、「監査役・監査役会は、監査役の選任に関し、取締役の意向に対する拒否権を有するだけでなく、積極的イニシアティブもとれる仕組みになっている。」(江頭憲治郎「株式会社法 第8版」550頁〔有斐閣・2021〕)と述べているのです。
このような監査役(会)の提案権の趣旨からすると、法が求めていない取締役会の反対意見を招集通知に記載することが監査役の独立性確保の観点から許されるのか、議論があってしかるべきです。
もう一つは、制度論になってしまいますが、監査等委員である取締役の任期が2年で良いのかという点です。
監査役については、その身分を保障し、独立を守るため4年という長期の任期が定められており(会社法336条1項)、任期は定款でも短縮することができません。同様の役割を担う監査等委員が2年という比較的短期の任期で(会社法332条1号,4号)、その地位が守られるのか、その問題が天馬の件で噴出したように思います。さらに任期が短く1年である指名委員会設置会社の監査委員(同条1号,6号)については尚更問題です。
私は、3年前から監査役や監査等委員会の方々と研究会を重ねており、監査役等の皆様が真摯にその職責を全うしようとされている姿勢を目にして来ました。
それもあって、監査等委員の独立が守られなかった天馬の件には釈然としないものがあります。もし、同様の事案に出会ったときにどのように対処するべきなのか、考えさせられる事件です。
加藤真朗
(終わり)
監査役の独立Ⅰ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁①―
監査役の独立Ⅱ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁②―