ところが、天馬における攻防は、これで終わりませんでした。天馬に取締役を輩出し、現経営陣と意を通じていると考えられる投資ファンドが、監査等委員である取締役選任議案について株主提案権を行使したのです。株主提案権とは、本来取締役会が決める株主総会の議題・議案について、株主が提案できる制度です(会社法303条,305条)。近時物言う株主(アクティビスト)がしばしば行使しており、東芝事件で株主提案議案が可決されたことが大きく報道されたためご記憶にある方も多いと思います。
投資ファンドによる株主提案権の行使によって、監査等委員会による「会社提案」と投資ファンドによる「株主提案」とが競合することになりました。そして、現経営陣が多数を押さえる取締役会は、「会社提案」ではなく、「株主提案」を支持するという異例の事態が生じたのです。
どちらの議案が可決されるのか注目される中、迎えた株主総会では株主提案が可決されました。現経営陣が勝ち、監査等委員会側が負けたのです。
報道によると、現経営陣側(次男一族)は、天馬株式を多く保有する創業四兄弟の長男一族の資産管理会社を取得し、先程述べたファンドとの連携もあり、多数派工作に成功したようです。
加藤真朗
(続く)
監査役の独立Ⅰ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁①―
監査役の独立Ⅱ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁②―