前回までは、監査役の独立を尊重した千葉地裁令和3年1月28日判決を紹介しましたが、今回は逆に監査等委員(会)の独立が守られなかった天馬事件を取上げます。
舞台となったのは東証第一部上場会社で、監査等委員会設置会社です。近時、社外取締役を複数人選任するためもあって、監査等委員会設置会社の数が増加しています。監査役(会)の代わりに監査等委員会が設置されていると考えると分かりやすいです。監査等委員会の役割は、監査役と同様、取締役の職務の執行の監査にあります(会社法399条の2第3項1号)。そのため、監査等委員(会)の独立性の確保についても、会社法において監査役同様の規定が用意されています。
天馬事件については、色々報道されていましたが、以下簡単に紹介します。
1 事案
天馬においては、取締役が関与した海外贈賄事件を発端として、創業家一族間を含む社内対立が激化していました。報道によると、創業四兄弟のうち、次男一族が現経営陣(取締役会多数派)、四男一族が反経営陣(「天馬のガバナンス向上を考える株主の会」)の構図のようです。
そして、監査等委員会は、不祥事に関与した取締役の責任を追及する訴訟を提起するなど、これも現経営陣と対立しました。現経営陣によると、監査等委員は反経営陣サイドと連携しているとのことでした。
このような状況下で迎えた令和3年の株主総会においては、監査等委員2名の任期が満了するため、改めて選任決議をする必要がありました。
そこで、監査等委員会は会社法344条の2第2項に基づき議案等提案権を行使しました。すなわち、監査等委員会が、自ら監査等委員の選任議案を"決めた"のです。この権利を行使すると監査等委員会が決定した議案がいわゆる「会社提案」となり、株主総会決議の対象となるのです。
条文は以下のとおりです。
(監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等)
第344条の2 取締役は、監査等委員会がある場合において、監査等委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査等委員会の同意を得なければならない。
2 監査等委員会は、取締役に対し、監査等委員である取締役の選任を株主総会の目的とすること又は監査等委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができる。
一般的には、監査等委員である取締役選任議案についても取締役会が決定します。
しかし、取締役に人事を支配されていると監査等委員会の役割である取締役の職務執行の監査が十分に発揮できないおそれがあります。そのため、監査等委員会には、選任議案提出についての同意権(会社法344条の2第1項)、さらには議案等提案権(同条2項)が与えられ、監査等委員会の独立性の確保が図られているのです。これは監査役(会)についても同様です(会社法343条1乃至3項)。
現経営陣と対立した天馬の監査等委員会は、取締役会の選ぶ監査等委員ではなく、自ら監査等委員を選ぼうと考え、議案等提案権を行使したのです。
加藤真朗
(続く)
監査役の独立Ⅰ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁①―
監査役の独立Ⅱ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁②―