前回に引き続き、法務デューデリジェンスについて説明します。
(7)訴訟等紛争
訴訟やその他紛争・クレームについて調査を行う目的は、法的紛争等から生じうる対象会社の潜在的債務や対象会社の事業に内在するリスクを把握することにあります。
対象会社が訴訟係属中である場合、これを看過してM&Aを実行すると、スキームによっては買い手側が当該訴訟を承継しなければならず、当該訴訟の帰趨によっては予期せぬ多額の債務を負担することになってしまいかねないため、訴訟等紛争に関するデューデリジェンスも必ず行う必要があります。
(8)許認可
許認可デューデリジェンスの目的は、対象会社が許認可を必要とする事業を行っている場合において、対象会社が必要な許認可を有効に取得しているか否か、当該許認可を維持又は取得することができるか否かを調査することにあります。
例えば、重要な許認可を取得することができない場合には、取引の目的が達成され得ないことになりますし、取得が可能であったとしても、取引実行から許認可の取得までに期間が開いてしまい、その間、事業を中断せざるを得ない場合には、顧客を失うことなどにより企業価値が毀損されるおそれがあります。
そして、調査の結果、このようなリスクが判明した場合には、許認可を滞りなく取得できる他のスキームを検討する必要が生じますし、場合によっては取引の中止を余儀なくされることもあります。
このように、許認可デューデリジェンスは、取引の根本方針に影響を及ぼし得る極めて重要な作業であるため、早期の着手と、慎重な検討が要求されます。
(9)知的財産権
知的財産デューデリジェンスにおいては、可能な限り対象知財の価値評価を行うために、対象知財の法的安定性、価値の安定性の程度を測る判断材料を収集することを目的としています。
また、対象会社が第三者の知的財産権を侵害している場合には、多額の損害賠償を請求されるリスクがあり、対象会社の有する特許権が従業員によって発明された職務発明の場合には「相当の利益」の支払問題も生じる等、知的財産デューデリジェンスは、簿外債務・潜在的債務の把握とも無関係ではありません。
知的財産デューデリジェンスは、対象会社が、ベンチャー企業やコンテンツビジネスを展開する企業である場合等、知的財産が対象会社の資産に占める割合が大きい企業の買収ほど、特に重要となってきます。
(10)コンプライアンス
近時、上場企業においてコンプライアンス(法令遵守)が年々重要性を増していることからもわかるとおり、コンプライアンスは事業の存続・発展において極めて重要です。
上場企業においては、個人情報の漏洩等、コンプライアンス違反が発覚した場合のメディア報道等による世間への影響力・会社に与える打撃も甚大であり、金融商品取引法や証券取引所の定める規則に基づく一定の企業情報の開示がなされています。一方、非上場企業においては必ずしもコンプライアンス遵守の動機付けが働かず、コンプライアンスに関する意識が十分ではない企業も存在します。
取引実行の障害となるコンプライアンス違反の発見、コンプライアンス違反によって企業価値に影響を及ぼす事項の発見、M&A実施後の経営統合の円滑化に資する事項の発見等のため、コンプライアンスに関するデューデリジェンスが実施されます。
(11)環境
環境デューデリジェンスの目的は、環境法令の違反の有無、さらに違反に基づく責任の発生の有無とその程度を調査することによって、事業継続の可否、事業継続に及ぼすリスクの程度、簿外債務の有無を把握することにあります。
近時、環境デューデリジェンスは、企業の社会的責任(CSR)やESG、SDGs
の関係でも、重要視されています。
(12)データ
データデューデリジェンスの目的は、近時その利活用の重要性が高まっているデータについて、個人情報保護法などの法令遵守状況の確認によるリスクの評価や、契約内容の確認によるデータ利活用継続可能性などを調査するものです。
<続く>
M&A(買い手側)の基礎知識③-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅰ
M&A(買い手側)の基礎知識④-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅱ
M&A(買い手側)の基礎知識⑤-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅲ
M&A(買い手側)の基礎知識⑥-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅳ
M&A(買い手側)の基礎知識⑦-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅴ
M&A(買い手側)の基礎知識⑧-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅵ
M&A(買い手側)の基礎知識⑨-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅶ
M&A(買い手側)の基礎知識⑪-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅸ
M&A(買い手側)の基礎知識⑫-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅹ