加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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M&A(買い手側)の基礎知識⑤-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅲ

前回に引き続いて、M&Aの各手法の概要を説明します。

(5)合併

 合併とは、合併契約の当事会社の一部又は全部が解散し、会社の権利義務が清算手続を経ることなく他の会社(存続会社・新設会社)に包括承継される組織再編行為をいいます。

 既存の会社が権利義務を承継する合併を吸収合併といい、複数の会社が会社を新しく設立し、そこに権利義務を承継させる合併を新設合併といいます。実務上は、吸収合併が用いられます。

 合併によって消滅する会社の権利義務は、労働契約等の継続的法律関係も含め、全て存続会社・新設会社に包括的に承継されますので、事業譲渡と異なり、権利義務の承継にあたっての個別の同意は必要ではありません。

 もっとも、会社法上要求される手続が煩雑である上、消滅会社に不採算事業や不良資産がある場合や、簿外債務が存在する可能性がある場合には適切な手法ではありません。

 また、合併すると一つの会社になるので、人事制度体系給与の統一性等、PMIに大きなエネルギーを費やす必要があります。

(6)株式交換

 株式交換は、既存の株式会社の株主の有する全株式を、別の株式会社または合同会社に移転させ、前者の株主に対し、後者から金銭等(通常は後者の株式が交付されます。)が交付される組織再編行為をいい、前者を完全子会社、後者を完全親会社とする完全親子会社関係を創設する機能を有します。

 株式交換と吸収合併とは、前者は他社を完全子会社化し、後者は一事業部門化するため、機能的に類似しますが、株式交換は、合併との比較において、従業員の給与体系など社内規定の統一の必要がない点や子会社として法人格が残る点でメリットがあるといわれています。

 株主総会決議をはじめとして会社法上の厳格な手続を履践する必要がある点は、他の組織再編行為と同様です。

(7)株式移転 

 株式移転は、既存の株式会社の株主の有する全株式を、手続中の設立される他の株式会社に移転させ、前者の株主が後者の株主となる会社の行為をいい、前者を完全子会社、後者を完全親会社とする完全親子会社関係を創設する機能を有します。

 M&Aの手法としては、2社以上が一つの持株会社を設立する、共同株式移転が用いられます。

 会社法上の厳格な手続を履践する必要がある点は、他の組織再編行為と同様です。

(8)株式交付

 株式交付は、既存の株式会社(株式交付子会社)の株主の有する株式を、別の株式会社(株式交付親会社)が譲り受け、株式交付子会社の株主に対し、株式交付親会社の株式を交付する組織再編行為をいいます。

 株式交換と同様に、親子会社関係を創設するものですが、株式交付は、完全子会社化するのではなく、過半数の議決権を譲り受けて子会社化するものです。

 株式交付は令和元年会社法改正で新たに導入されたM&Aの手法です。

<続く>

M&A(買い手側)の基礎知識①-M&Aと弁護士の役割

M&A(買い手側)の基礎知識②-弁護士の必要性・有用性

M&A(買い手側)の基礎知識③-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅰ

M&A(買い手側)の基礎知識④-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅱ

M&A(買い手側)の基礎知識⑥-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅳ

M&A(買い手側)の基礎知識⑦-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅴ

M&A(買い手側)の基礎知識⑧-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅵ

M&A(買い手側)の基礎知識⑨-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅶ

M&A(買い手側)の基礎知識⑩-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅷ

M&A(買い手側)の基礎知識⑪-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅸ

M&A(買い手側)の基礎知識⑫-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅹ

M&A(買い手側)の基礎知識⑬-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅺ

M&A(売り手側)の基礎知識①-M&Aとは

M&A(売り手側)の基礎知識②-弁護士の必要性

M&A(売り手側)の基礎知識③-弁護士が関わる手続Ⅰ

M&A(売り手側)の基礎知識④-弁護士が関わる手続Ⅱ

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