2 M&Aの各手法の概要
(1)株式譲渡
株式譲渡は、文字通り、対象会社の株式を保有する株主が、買い手に当該株式を売却するもので、対象会社の法人格、財務状況には何ら影響を与えることなく、株式のみが移転し、会社の支配権が異動します。
株式譲渡のメリットとしては、各種スキームの中では最も手続が簡便かつ迅速に行うことができ、法的手続に要する費用も安価に抑えることができる点が挙げられます。
また、対象会社が許認可を取得している場合には、原則として許認可を新たに取得する必要もありません。
他方で、スキームの性質上、株式の帰属が明確になっていることが最重要であって、この点について疑義がある場合には、株式譲渡の手法を選択することは好ましくありません。 また、対象会社が多くの簿外債務や、不良資産を抱えている場合には、これを株式譲受人がそのまま負担することとなってしまうというデメリットもあります。
(2)新株発行(自己株式の処分)
M&Aの手法として、対象会社が新株を発行(又は自己株式を処分)することにより、買い手に株式を取得させることがあります。いわゆる第三者割当てです。
新株発行を行う場合は、株式の帰属について疑義が生じることは少なく、後にその効力が争われる場合も、新株発行無効の訴え等の法定の手続が必要となり、非公開会社の場合は、新株発行無効の訴えは、原則としてその効力発生から1年以内に提起しなければならない等、制度上、その法的安定性が一定程度確保されています。
他方で、新株発行のみでは、対象会社の全株式を取得することができないため、対象会社の支配権を100%取得しようと考えている場合には、通常は用いられない手法です。
(3)事業譲渡
事業とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体となって機能する財産をいい(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)、事業譲渡とは、そのような集合的な資産・負債等の売買をいいます。
事業譲渡は、契約によって個別の財産や権利関係等を移転させることができますので、株式譲渡等と異なり、取得したい事業のみを切り出すことや、簿外債務を遮断することができる点が大きなメリットとして挙げられます。また、類似する機能を有する会社分割と比較すると、会社法上求められる手続の負担が少ないというメリットもあります。
他方で、債務や契約上の地位の移転については相手方の同意が必要になるなど、事業譲渡によって承継させる契約関係が多数に上る場合や相手方の同意が見込めない場合、他には許認可の承継取得や新規取得が困難な場合などには、スキームの選択として好ましくありません。
(4)会社分割
会社分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、他の会社に包括的に承継させる組織再編行為をいいます。
権利義務を既存の会社に引き継がせる会社分割を吸収分割、新しく設立する会社に引き継がせる会社分割を新設分割といいます。
会社分割は、対象会社の必要な範囲の財産や事業を切り出して承継させることができ、また事業譲渡と異なり、契約上の地位の移転の際には、相手方の同意が必要ない(ただし、労働契約の承継については、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律が定める一定の制限があります。)などのメリットがあります。
他方で、会社法上厳格な手続が要求され他の手続と比較して事務コストが増大すること、また、分割会社が何らかの許認可を要する事業を営んでいる場合には、その許認可を承継あるいは新規取得するために一定の手続が必要となる場合が多いなどがデメリットとして挙げられます。
<続く>
M&A(買い手側)の基礎知識③-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅰ
M&A(買い手側)の基礎知識⑤-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅲ
M&A(買い手側)の基礎知識⑥-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅳ
M&A(買い手側)の基礎知識⑦-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅴ
M&A(買い手側)の基礎知識⑧-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅵ
M&A(買い手側)の基礎知識⑨-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅶ
M&A(買い手側)の基礎知識⑩-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅷ
M&A(買い手側)の基礎知識⑪-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅸ
M&A(買い手側)の基礎知識⑫-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅹ