3 従業員持株会の制度設計Ⅱ
前回に引き続いて、従業員持株会の制度設計について説明いたします。
(4)譲渡制限ルール
非上場会社の従業員持株制度の下では、通常、退職等によって従業員の身分を喪失し、従業員持株会を退会する際には、当該退会者の保有する持分ないし持分に相当する株式を、退会者の出資額と同額で、特定の者(会社や会社の指定する者、従業員持株会など)に対して売り渡す旨を予め従業員持株会規約や会社・従業員持株会間の合意書上で定めることが多く行われています。
かかる譲渡制限ルールは、株主平等の原則や会社法上の株式譲渡制限に係る規律、公序良俗との関係で、その効力が問題となりやすい定めです。
その有効性については、判例・裁判例上、①従業員持株会の設立目的の合理性、②当該会社株式の市場性の有無、③取得価額と譲渡価額との乖離の程度、④譲渡ルールについての従業員の認識、⑤配当の実施状況・配当率・配当利回り等の各要素を加味して判断される傾向にあります。
かかる判断要素の内、非上場会社における従業員持株会においては、特に従業員の認識と配当の実施状況等が重要となります。
そのため、譲渡制限ルールの効力が後々否定されることのないように、従業員持株会の発足や運営にあたっては、譲渡制限ルールについて従業員に対して事前に十分な説明を行い、また発足後においては、会社が一定の利益をあげている限りは、配当を実施することが大切であるといえます。
(5)保有株式数、株式の種類
従業員持株制度を導入した場合には、オーナー保有の株式を一部譲渡するにせよ、第三者割当増資により普通株式を発行するにせよ、必然的に元々オーナーが有していた議決権割合が低下することになります。
従業員持株会に株式を保有させるとしても、会社の円滑な経営のためには、会社・オーナー側の安定した支配権・経営権は維持する必要がありますので、定款変更や組織再編といった重要事項において要求される株主総会特別決議の成立に必要な議決権数、すなわち総議決権の3分の2以上の株式についてはオーナー側に残すか、少なくとも過半数の株式はオーナー側に残しておくことが必要です。
また、従業員持株会の設立と同時に種類株式を活用することで、経営権・支配権維持に備えることも検討に値します。
例えば、従業員持株会に保有させる株式を無議決権株式とすることや、従業員持株会を設立する前に、オーナー側に拒否権付株式を発行すること等が考えられます。
ところで、従業員持株会も株主であることに変わりはありませんので、各種株主権を行使されるリスクがあります。
キャピタル・ゲインが得られず、議決権が制限され、更には配当も実施されない等、あまりにも不当な従業員持株会の制度設計・運用を行っていた場合には、その独立性が否定される等、税務上・法律上のリスクも高まりますので、従業員持株会の制度設計にあたっては、各種専門家に相談しながら、従業員持株会の本来の目的に適う、バランスの取れた制度設計を行うよう心がけましょう。
<続く>