加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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事業承継・少数株主対策-持株会③

3 従業員持株会の制度設計Ⅰ

 従業員持株制度の導入にあたっては、事前に持株会規約案を策定する等して、持株会のルールを決める必要があります。

 持株会の制度を設計する際には、持株会の法的性質、株式購入資金の原資の準備方法、持株会の参加資格を有する従業員の範囲、退会清算の方法等、様々な要素について決定していく必要がありますが、一番大事な点は、持株制度を導入する目的を鮮明にして、当該目的に適う制度設計を心がけることです。

以下では、従業員持株制度の設計にあたって考慮する必要がある主立った要素について説明します。

(1)従業員持株会の大枠

 従業員持株会の設立形態には、「民法上の組合」として設立する方法、「法人格のない社団」として設立する方法、「任意団体」として設立する方法の3種類がありますが、税務上その他のコストの問題から、多くは民法上の組合方式が採用されています。

 また従業員の参加形態も、参加者全員が組合員となって、組合に株式購入資金を出資する「全員参加方式」と、少数のメンバーが組合員となり労務出資して、一般の参加者の株式投資の代行を行う「少数会員方式」の2種類がありますが、全員参加方式によることが一般的です。

 従業員持株会の購入資金の拠出形態としては、組合員が定期継続的に毎月の給与や賞与から一定額を積み立てて株式購入資金を準備する「定時積立方式」、第三者割当増資などにより一時的に相当数の株式を購入するための資金を一括で準備する「一時分譲方式」、あるいはこれらの「併用方式」があります。

 非上場会社においては、通常、発行済株式総数が少なく、またオーナーとしては支配権を維持した状態での従業員持株会の組成を望みますので、支配権に影響を与えない程度のオーナー保有株式の一部譲渡や第三者割当増資によって、従業員持株会設立時や従業員持株会に新たな組合員が加入するタイミングで、参加従業員に株式購入資金を一括で拠出させる一時分譲方式が採用されることが多いといえます。

(2)従業員持株会の参加資格

 従業員持株会の参加資格は、全従業員を対象とするもの、契約社員やパートを除く従業員を対象とするもの、一定の役職や勤続年数のある従業員に限定するもの、子会社従業員まで対象を広げるもの等様々考えられますが、重要な点は、従業員持株会の設立目的に沿って参加資格を決定することです。

 例えば、専ら従業員の福利厚生、財産形成、経営参加意識の向上を意図して設立する場合には、できるだけ広範な従業員を対象とするのが好ましいといえますし、他方で従業員持株会へ拠出できる株式数が限定されている場合や、親族外従業員への事業承継プロセスとして設立する場合には、一定の地位にある従業員に限定することが好ましいといえます。

 なお、従業員持株会の中途退会者については、投機的な従業員持株会への加入を防ぐことに加え、安定株主確保という目的を達成するために、再加入を原則として禁止することが一般的です。

 また、従業員であったとしても、大株主と税務上同族にあたる従業員等一定の関係を有する従業員は、配当還元価額で株式を購入すると高額な税負担が発生する場合が多いため参加資格を与えず、同様に従業員としての属性を兼ね備える使用人兼務役員も、会社法上の報酬規制との兼ね合いから参加資格を与えないこととするのが一般的です。

(3)株式購入資金の準備方法

 従業員持株会が株式を購入するためには、当然のことながらその資金が必要となります。

 株式購入資金の原資としては出資金(積立金)、奨励金、配当金などが考えられます。

株式の取得方法が定時積立方式の場合には、参加従業員の給与の一定額を天引きすることで積み立てることができますので、従業員と会社との間で天引きについての合意が成立すれば、購入資金の準備には特段の問題は生じません。

 他方で、株式の取得方法が一時拠出方式の場合には、比較的多額の資金を一括で準備する必要がある上、例え配当還元価額により比較的安価に購入することが可能であるとしても、従業員持株会規約上、最低出資額が定められている場合や株式の評価額の如何によっては、一従業員が出資金を準備することができないことも想定されるため、株式購入資金の準備方法が従業員持株会設立にあたっての一つの大きな課題となり得ます。

 そのため、従業員持株会設立にあたっては、会員の資金負担を考慮して、臨時賞与の支給や、会社貸付による資金援助を行う等して、参加資格を有する者が誰でも従業員持株会に参加できるような便宜を会社が取り計らうことも考える必要があります。

 なお、会社貸付によって株式購入資金を準備する場合で、無利息で貸付けた場合には、適正利息額分が給与であるとして課税されるリスクや、場合によっては従業員持株会による株式の取得が自己株式の取得であると捉えられる法的リスクがあるため、消費貸借契約書の作成とともに、適正な利息を得ることが肝要です。

<続く>

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