3 株主割当て
(1)株主割当てによる議決権の確保
「株主割当て」とは、全ての株主に対して現状の株式の保有割合に応じて新たな株式取得の機会を与える募集株式の発行等をいいます。
対立する少数株主との間の資金力に大きな差がある場合には、事実上第三者割当と同様の効果をもたらすことが期待できます。
例えば、発行済株式総数1000株の非公開会社において、唯一の取締役兼株主Aが600株、Bが300株、Cが100株保有しており、当該会社で株主割当てを実施し、その募集事項として、募集株式の数を1000株、1株あたり金10万円とし、株主が保有する株式1株につき1株の割合で募集株式の割当てを受ける権利を与えた場合を考えてみましょう。
この場合、全ての株主が割当てを受ける権利を行使したとき、すなわちAが6000万円、Bが3000万円、Cが1000万円を払い込めば、各株主の持株数はAが1200株、Bが600株、Cが200株となり、結果的に議決権割合に変動はないこととなります。
しかし、Aが600株、Cが100株の割当てを受けたが、Bのみ払込資金が用意できず、割当てを受けなかったときは、各人の持株数は、Aが1200株、Bが300株、Cが200株となり、株主割当て実施前では3分の2の議決権を確保していなかったAが、単独で3分の2の議決権を有することができるようになり、経営の安定化、対立株主の影響力の希釈化を図ることができます。
(2)非公開会社における具体的手続
株主割当ての手続は、第三者割当てと同様にまず募集事項等を決定する手続が必要となります。非公開会社においては、当該決定手続は定款に特段の定めがない限り株主総会特別決議で行いますが、定款に委任規定がある場合には取締役会決議(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数による決定)で定めます。
その後、原則として申込期日の2週間前までに全株主に募集事項等を通知するとともに、募集株式の引受けの申込をしようとする株主へ通知し、株主からの申込み、出資の履行を経て、資本金や発行済株式総数につき変更がある場合には変更登記申請を払込期日から2週間以内に実施し、手続が完了します。
なお、申込期日までに申込みをしない株主や、払込期日までに出資の履行をしない株主は失権しますので注意を要します。
以下の図は、株主割当てによる募集株式の発行等の手続の流れを示しています。
<続く>