2 第三者割当て
(1)第三者割当による議決権の確保
「第三者割当て」とは、特定の第三者に対して募集株式の発行等を行うことをいい、後継者や安定株主に対し募集株式の発行等を行うことによって、これと対立する少数株主の影響力を希釈化することができます。
例えば、発行済株式総数1000株の非公開会社において、唯一の取締役兼株主Aが600株、Bが300株、Cが100株保有しており、Aの後継者Dに1000株を割当てる内容の第三者割当てを、AとCが協力して実施した場合を考えてみましょう。
この場合、第三者割当て実施後の持株数は、Aが600株、Bが300株、Cが100株、Dが1000株となり、Aとその後継者Dが併せて3分の2を超える議決権を確保することができ、経営の安定化を図ることができます。
(2)第三者割当の問題点
もっとも、第三者割当ては、後継者等に第三者割当てに応じるための資金力がない場合には利用できず、また新株の発行価額等によっては、少数株主との間で新株発行の効力を巡って争いが生じるリスクもあります。
また、非公開会社の場合には、必ず株主総会特別決議を経る必要がありますので、3分の2以上の議決権を確保できない場合には実施することができず、公開会社においても、発行価額が当該第三者にとって特に有利な金額(有利発行)である場合には、株主総会特別決議が必要的となり、当該株主総会において取締役に説明義務が課されるなど、特別の手続規制を受けますので注意を要します。
(3)非公開会社における具体的手続
取締役会設置会社である非公開会社における第三者割当ての具体的手続は、まず法定の募集事項等を株主総会特別決議により決定する募集事項決定手続を経る必要があります。株主総会特別決議により具体的な募集事項等の決定を取締役会(取締役会非設置会社においては取締役)に委任することもできます(募集事項等決定手続)。
その後、募集株式引受けの申込をしようとする特定の者に対して募集事項等を通知し、当該株主からの申込みを受けた後、取締役会において募集株式の割当決定をした上で、割当ての通知をします(通知・割当決定手続)。
最後に、特定の株主からの出資の履行を経て、資本金や発行済株式総数につき変更がある場合には払込期日から2週間以内に変更登記申請を実施して、手続が完了します。
なお、申込期日までに申込みをしない者や、払込期日までに出資の履行をしない引受人は失権しますので注意を要します。
以上の手続に対して、会社と特定の者との間で「総数引受契約」を締結する場合には、原則として取締役会決議の承認を経ることで、申込みをしようとする特定の者への通知・割当決定手続を省略することができ、実務上第三者割当てが実施される場合には、当該契約を締結させることが多いといえます。
以下の図は、取締役会設置会社である非公開会社が、第三者割当てによる募集株式の発行等を行う場合の手続の流れを示しています。
<続く>