自己株式の取得
1 自己株式取得による議決権の確保
「自己株式の取得」とは、株式会社が発行した株式を会社自らが取得することをいいます。自己株式には議決権が認められていないため、会社が株主との合意により自己株式を取得することによって、各株主の議決権割合が変動し、結果的に株式の集約と同様の効果が得られることになります。
例えば、発行済株式総数1000株の株式会社X社において、唯一の取締役Aが400株(議決権割合40%)、Bが200株(議決権割合20%)、Cが400株(議決権割合40%)保有していた場合を考えてみましょう。
このままではX社を経営するAは単独で議決権の過半数すら有していませんので、X社の経営権が不安定な状態となっています。ところが、X社がCから400株を買い取った場合、X社が400株(議決権なし)、Aが400株(議決権割合66.66・・・%)、Bが200株(議決権割合33.33・・・%)と変動し、Aは単独で議決権の過半数どころか3分の2を掌握することとなりますので、重要な株主総会決議を単独で成立させることが可能となり、会社経営の安定化を図ることができます。
2 自己株式取得手続
自己株式取得の手続は、まず有償か無償かによって大きく異なります。
無償の場合には、法律上特段の手続規制は課されておらず、当該会社の機関構成や定款・規程に則した手続によって実施することができます。
これに対して有償の場合には、必ず取得する株式の総数や引換えに交付する金銭の総額等の枠組みを株主総会決議によって決定し、取締役会決議により具体的な取得価格等を決定した上で、株主に対して通知(公開会社の場合には公告によって代替することができます。)し、株主からの申込みを受けるという各種手続規制があります。
また、自己株式取得の手続は、株主を特定せずに株式を取得するか、特定の株主から株式を取得するかによっても異なります。
株主を特定せずに株式を取得する場合には上記株主総会決議は普通決議で足りますが、特定の者から株式を取得する場合には、特別決議が要求され、更に原則として株主総会の20日前までに、会社は全株主に対して売主追加請求権を行使できる旨の通知をしなければなりません。
「売主追加請求権」とは、特定の株主に加えて自己をも売主として追加するよう請求する権利をいい、当該権利を行使しようとする株主は、原則として上記株主総会の5日前までに権利を行使しなければなりません。
売主追加請求権は定款の規定によって排除することもできますが、株式の発行後にかかる定款変更を行う場合には全株主の同意を得なければなりません。また、売主追加請求権は、会社が株主の相続人等一般承継人からその一般承継により取得した自社株式を取得する場合には、当該会社が公開会社であるとき、あるいは一般承継人が承継取得した株式について議決権を行使したときを除き、認められていません。
3 まとめ
以上のように、株主との合意により自己株式を有償で取得する場合には、各種手続規制が課されており、財源規制も適用されます。また、仮に手続に瑕疵が存在した場合には自己株式の取得が無効と判断されるおそれもありますので、自己株式の取得手続に精通した弁護士等の専門家に依頼し、瑕疵なく手続を履践するように心がけましょう。
以下の図は取締役会設置会社である非公開会社が特定の株主から有償で株式を取得する場合の手続の流れを示しています。
<続く>