(2)会社運営の適法性・妥当性確保のための紛争
ア 株主総会決議不存在確認、同無効確認、同取消の訴え
同族会社など非上場会社の中には、株主総会が会社法に従って開催されていない例が見られます。
株主が株主総会の瑕疵を争う方法としては、株主総会決議不存在確認の訴え、株主総会決議無効確認の訴え、株主総会決議取消の訴えの3種類があります。
(ア)株主総会決議不存在確認の訴え
「株主総会決議不存在確認の訴え」は、株主総会決議が事実として存在していないにもかかわらず、これが存在するかのような外観がある場合や、多数の株主に株主総会招集通知がなされていない等、法的に株主総会が存在すると評価できないような事情がある場合に、訴えをもって株主総会決議の不存在を確認する手続をいいます。
株主総会決議の不存在は、わざわざ訴えを提起しなくとも主張することができますが、当該決議の不存在を対世的に確定させることで紛争の抜本的解決が図れる場合には、同不存在確認の訴えを提起することが好ましいといえます。
(イ)株主総会決議無効確認の訴え
「株主総会決議無効確認の訴え」は、決議の内容が法令に違反する場合に、訴えをもって株主総会決議の無効を確認する手続をいいます。
法令に違反する場合とは、例えば財源規制に反する剰余金配当決議、自己株式取得決議などの各種決議や、取締役会設置会社における総会決議事項に属さない決議、株主平等の原則に反する決議などがあげられます。
株主総会決議不存在と同様に、決議の無効は訴えを提起しなくとも主張することができますが、同決議の無効を対世的に確定させることで紛争の抜本的解決が図れる場合には、同無効確認の訴えを提起することが好ましいといえます。
(ウ)株主総会決議取消しの訴え
「株主総会取消しの訴え」は、①株主総会の招集手続又は決議の方法が法令・定款に違反し、または著しく不公正な場合、②決議の内容が定款に違反する場合、③決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がなされた場合に、株主総会決議の日から3か月以内に訴えをもって当該決議を取り消すことのできる手続をいいます。
①招集手続の法令違反としては、一部の株主に対する招集通知もれや、招集通知への必要的記載事項の欠缺などがあり、決議方法の法令違反としては取締役の説明義務違反や取締役会設置会社が招集通知に記載のない事項を決議した場合などが挙げられます。また、招集手続の著しい不公正としては、例年とは異なって株主が参加しづらい日時・場所に招集した場合が、決議方法の著しい不公正としては、株主に質疑の機会を与えないまま決議した場合などが挙げられます。
また、②決議の内容が定款に違反する場合とは、定款所定の員数を超える取締役を選任した場合などがあります。
③「特別の利害関係を有する者」とは、問題となる議案の成立によりほかの株主と共通しない特殊な利益を獲得し、もしくは不利益を免れる株主をいい、当該人物が議決権を行使したことにより著しく不当な決議がなされた場合には、取締役兼株主が、当該取締役の責任免除に係る株主総会決議において議決権を行使した場合などがあたり得ます。
なお、株主総会決議取消しの訴えの内、招集手続又は決議の方法が法令・定款に違反することを理由とするものについては、裁判所は、その違反する事実が重大ではなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときには、請求を棄却することができます(裁量棄却)。
以上みてきたように、株主総会決議の効力を争う訴えは3種類用意されており、各訴え毎に要件は異なっており、特に決議取消しの訴えは、株主総会決議の日から3か月以内という短期間に訴えを提起しなければならず、また出訴期間経過後に新たな取消事由を追加することはできないと解されていますので、事案に応じて適切な時期に適切な訴えを提起する必要があります。
そのため、株主としては、株主総会決議に瑕疵があると考える場合には、当該決議後直ぐに弁護士に相談することが肝要です。
また、株主総会の瑕疵は、その内容によっては以降の株主総会決議にも波及し、紛争が長期化する傾向にあり、無駄な各種コストを要することになりかねません。
そのため、会社側としては、瑕疵なく手続を履践し、株主総会を運営することが肝要で、重要な株主総会決議を行う際には、弁護士の監修の下手続きを進めるのが好ましいといえます。
イ 総会検査役選任の申立て
「総会検査役選任の申立て」とは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の1%以上(これを下回る割合を定款で定めることも可能です。)の議決権を有する株主又は会社自身が、株主総会開催前に、裁判所に総会検査役の選任を申し立てるものです。
「総会検査役」とは、株主総会の招集手続及び決議方法を調査するために裁判所によって選任される機関です。総会検査役が選任されると、株主総会の招集手続から株主総会の開催まで検査役が参加し、ビデオ等で録画することになります。そして、その結果検査役による報告書が作成されます。
総会検査役の選任には、違法行為抑止機能と証拠保全機能の二つの効果があると考えられており、重要な株主総会が開催される場合には、後日の紛争に備え、同申立てがなされることがあります。
ウ 各種情報収集手段
株主が、会社運営の適法性・妥当性を確認するためなどに、会社内部の情報を入手する方法として、会社法上、業務執行検査役選任申立てによって検査役作成の報告書を得る方法や、定款の閲覧・謄本又は抄本の交付等請求、株主名簿閲覧謄写請求、株主総会議事録閲覧謄写請求、取締役会議事録閲覧謄写請求(ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名等委員会設置会社の場合には裁判所の許可が必要)、会計帳簿等閲覧謄写請求、計算書類等の閲覧・謄本又は正本の交付等請求などが用意されています。
なお、各種閲覧謄写ないし交付請求権を親会社社員が行使しようとする場合には裁判所の許可が必要とされています。
以上の各手段は、実務上、各種紛争に先だって、又は各種紛争に付随して株主から権利行使されることが多いといえます。
<続く>