前回の記事のおさらい:
改正パート・有期法第8条は、契約社員・アルバイトと通常の労働者との「不合理な待遇差」を禁止しています。
では、「不合理な待遇差」か否かはどのように判断すればよいのでしょうか。
今回は、その基本的な考え方について、条文をかみ砕いて、分かりやすくご説明したいと思います。
第1 改正法が明らかにした考え方【2つのステップ&4つの要素】
改正法8条2項をかみ砕くと以下のように整理できます。
【2つのステップ】
- 前 提:不合理かどうかは「個々の待遇ごと」に判断する。
- ステップ1:問題となる待遇の「性質・目的」に照らして判断する。
- ステップ2:「4つの要素」のうち適切なものを考慮して判断する。
【4つの要素】
そして、「4つの要素」として、条文上、以下の要素が明示されています。
- 要素①:業務の内容
- 要素②:責任の程度
- 要素③:職務の内容・配置変更の範囲
- わかりやすく言い換えれば『人材活用の仕組み』です。
- 要素④:その他の事情
- 判例上、この「その他の事情」は相当重視されているように見受けられます。
第2 「4つの要素」についてもっと詳しく!
「4つの要素」について、具体的なイメージをもっていただくために、ガイドラインや判例を踏まえて、以下の表のように整理してみました。
要素①~③は、言葉どおりの意味です。
分かりにくいのは、要素②の「責任の程度」ですが、この表の補足説明の部分をお読み頂ければ、要素②のおおよそのイメージを掴んでいただくことができるかと思います。
第3 基本的な考え方は分かったが、具体的にどのように判断すれば良いのか?
「不合理な待遇差」かどうかの基本的な考え方は、以上にご説明差し上げたとおりです。
ただ、これはあくまでも「基本的な考え方」であって、それ以上のものではありません。
皆様の会社において個々の待遇ごとの不合理性を検討するにあたっては、「基本的な考え方」を理解しているだけでは、何が正解なのか、確信をもって判断しかねる場面があるかと思います。
そんなときに役に立つもの(やや強い表現になりますが『参考にすべきもの』といっても良いかもしれません。)があります。
それは、①裁判例と②ガイドラインです。
①裁判例に関しては、特に「最高裁判決」が重要となります。
直近では、令和2年10月に5つの最高裁判決が出ています。
大阪医科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件(日本郵便に関しては3件の判決が出ています。)の5つです。
いずれも、実務上極めて重要な判決です。
さらに、これらの最高裁判決後の下級審裁判例の動向もまた重要といえます。
②ガイドラインも重要です。
各待遇ごとに、「原則となる考え方」や、「問題となる事例・問題とならない事例」を示してくれていますので、自社の待遇差を検討する上で、とても参考になるはずです。
ですが、ガイドラインには「2つの落とし穴」がありますので、ご注意ください。
1つ目の落とし穴は、「あくまでも行政が出している解釈指針に過ぎない」ということです。つまり、ガイドラインは絶対的なものではありません。極端な話を言えば、ガイドラインに照らせば問題ないと思っていたが、裁判になった結果「不合理な待遇差」であると判断されてしまった、という事態が生じる可能性もゼロではありません。
2つ目の落とし穴は、「退職金」等の一部の重要論点については詳細な説明が無いということです。そういう論点に関しては、「裁判例の集積に委ねる」という趣旨なのでしょう。
本稿は以上となります。
次回からは、特に実務への影響が大きいと推測される、契約社員の「賞与」「退職金」「有給の病気休暇」について、大阪医科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件等の最高裁判決で示された考え方をもとに、解説を行っていきます。
なお、比較的近時の重要な最高裁判決としては、上述した最高裁判決(大阪医科大事件、メトロコマース事件、日本郵便事件)の他にも、平成30年6月1日に下された2つの最高裁判決(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件)があります。これら2つの事件においては、正社員と契約社員とで「皆勤手当」や「無事故手当」の支給の有無に差があったことについて、違法である旨の判断が下されています。
以上
(弁護士 坂本龍亮)