第1 株式交換の差止め
1 制度の概要
平成26年改正により、違法な株式交換について、株主による株式交換差止請求制度が導入されました(784条の2、796条の2)。ただし、簡易株式交換の株式交換完全親会社の株主には、原則として差止請求が認められません(796条の2ただし書、796条2項本文)。
請求の相手方は自己が株主である会社です。
2 差止め事由
(1)法令・定款違反
株式交換が法令または定款に違反する場合に、株式交換完全子会社または株式交換完全親会社の株主が不利益を受けるおそれがあるとき、差止請求が可能となります(784条の2第1号、796条の2第1号)。
ただし、株主は、相手方当事会社に生じた事由を差止事由として主張することができない点に注意が必要です。
法令違反の例は以下のとおりです。
① 株式交換契約の内容の違法
② 備置書類等の不備置・不実記載
③ 株式交換契約承認決議の瑕疵
④ 株式・新株予約権買取請求の不履行
⑤ 債権者異議手続の不履行
⑥ 要件を満たさない簡易株式交換・略式株式交換の実施
⑦ 株式交換完全子会社の株主に対する対価の割当ての違法
⑧ 独禁法等の法令違反
など
(2)略式株式交換における交換条件の著しい不当
略式株式交換の株式交換条件が当事会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当で、従属会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときにも、差止請求が可能です(784条の2第2号、796条の2第2号)。
3 仮処分
株主の差止請求権の実現は、実務上、会社を債務者として、株式交換差止請求権を被保全権利とする仮処分によって行われます。
第2 株式交換の無効
1 制度の概要
株式交換の無効は、訴えによってのみ主張することができます(828条1項11号)。
提訴期間は、株式交換の効力発生日から6箇月以内に制限されています。
提訴権者は、効力発生日において当事会社の株主、取締役、執行役、監査役(会計監査に限定した者を除く)、清算人であった者、株式交換完全親会社の株主、取締役、執行役、監査役(会計監査に限定した者を除く)、清算人及び株式交換について承認しなかった債権者です(828条2項11号)。この債権者とは、債権者異議手続において異議を述べた債権者に加え、必要とされる各別の催告を受けなかった債権者が含まれます。
被告として、株式交換の当事会社の双方を訴える必要があります(固有必要的共同訴訟・834条11号)。
管轄は被告会社の本店所在地の地方裁判所(835条1項)です。
悪意の株主・債権者の担保提供、弁論の必要的併合、悪意・重過失ある敗訴原告の損害賠償責任についても規定されています(836条、837条、846条)。
2 無効事由
差止事由である法令違反行為と同様ですが、差止めについては株主が不利益を受けるおそれとの要件がありましたが、無効についてはそのような要件はありません。法令違反の影響の重大性、差止請求の機会の有無等から、事案ごとに判断されると思われます。
株式交換の無効が認められた事例としては、例えば、東京地判平成18年3月28日判例集未登載(LLI/DB判例番号L06130525)(株式交換契約書の承認に係る株主総会決議に取消事由がある事案)、神戸地裁尼崎支判平成27年2月6日金判1468号58頁(備置書面等が備え置かれていなかった事案)があります。
また、差止仮処分に違反する株式交換については無効と考えられています(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』956頁)。
なお、株式交換無効の訴えと、その前提となる株主総会決議の無効確認・不存在確認・取消の訴え(以下「決議取消しの訴え等」といいます。)との関係については、①株式交換の効力発生前においては、株式交換無効の訴えにより争うことはできず、決議取消し等の訴えによる必要があり、他方、②株式交換の効力発生後は、決議取消し等の訴えにより争うことはできなくなり、株式交換無効の訴えによる必要がある(吸収説)ものと解されています。もっとも,近時は,株式交換の効力発生後も,決議取消しの訴え等は無効の訴えに吸収されずに存続するという見解(併存説)も有力に主張されています(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』373頁)。
3 判決の効力
株式交換の無効の判決が確定すると、その効力は第三者に対しても及びます(対世効・838条)。
一方、判決の遡及効は認められません(839条)。
株式交換が無効とされた場合、旧完全親会社が株式交換の対価として旧完全親会社の株式を交付したときは,無効判決確定時の当該旧完全親会社株式の株主に対し,旧完全親会社株式の交付を受けた者が有していた旧完全子会社株式を交付しなければなりません(844条1項)。