はじめに
本稿を始めとする一連の記事においては,新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から,企業の皆様が令和2年度の定時株主総会において,直面しうる問題点とそれに対する対応の一例等を簡単にご紹介しております。
本稿では,令和2年5月15日,新型コロナウイルス感染症対策の一環として,会社法施行規則及び会社計算規則の一部が改正され,同日施行されましたので,改正の内容についてご紹介致します。
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会社法施行規則及び会社計算規則の改正
1 改正の概要
取締役会設置会社においては,取締役は,定時株主総会の招集通知に際し,株主に対して,計算書類及び事業報告(監査役等による監査報告,会計監査人による会計監査報告を含む)を提供しなければならないと定められています(会社法437条)。このとき,計算書類及び事業報告に表示すべき事項の一部については,ウェブサイト上で掲載することにより,株主に対して上記提供がなされたものとみなすことができるとされています(会社施行規則133条3項,会社計算規則133条4項,ウェブ開示によるみなし提供制度)。
今回の会社法施行規則及び会社計算規則の改正は,このウェブ開示によるみなし提供制度の利用が認められる事項の範囲を拡大するものです。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため出勤制限等が行われた影響により,決算業務や監査業務に遅れが生じている企業が多数見受けられます。そのような中で,定時株主総会の招集通知において株主へ提供すべき資料につきウェブ開示を認める範囲を拡大することで,当該資料の印刷,郵送等の企業の負担を軽減することが目的です。
参照:
・会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和2年法務省令第37号)について
2 事業報告
今回の会社法施行規則の改正により,新たにウェブ開示が認められることになった,事業報告に表示すべき事項は,
・当該事業年度における事業の経過及びその成果(会社法施行規則120条1項4号)
・対処すべき課題(会社法施行規則120条1項8号)
の2点です(会社法施行規則133条の2第1項)。なお,上記事項について事業報告に係る監査報告や会計監査報告がある場合には,それらについてもウェブ開示が認められます(会社法施行規則133条1項)。
これらの事項についてウェブ開示が認められるためには,定款においてウェブ開示を利用することが定められていなければなりません(会社法施行規則133条の2第1項但書,同133条3項)。
また,ウェブ開示の方法としては,
①当該事項に係る情報を定時株主総会に係る招集通知を発出する時から株主総会の日から3か月が経過する日までの間,継続してインターネット上のウェブサイトに掲載し(会社法施行規則133条の2第1項柱書),
②当該ウェブサイトのURL等を株主に対して通知(会社法施行規則133条の2第2項)
しなければなりません。
3 計算書類
また,貸借対照表及び損益計算書についても,以下の要件を満たす場合には,事業報告と同じ方法によりウェブ開示することができます(同条同項柱書)。なお,貸借対照表及び損益計算書に係る監査報告や会計監査報告がある場合には,それらについてもウェブ開示が認められます(会社計算規則133条1項)。
①ウェブ開示を利用することにつき定款に定めがあること(同条同項1号)
②会計監査人による会計監査報告に無限定適正意見が付されていること(同条同項2号)
③監査役等による監査意見が,会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見でないこと(同条同項3号)
④監査役会等による監査報告に付記された個々の監査役の意見が,会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見でないこと(同条同項4号)
⑤提供計算書類が,特定監査役が監査報告の内容を通知すべき日に通知しないために監査役の監査を受けたとみなされたものでないこと(同条同項5号)
⑥取締役会を設置していること(同条同項6号)
4 株主の利益への配慮
今回の会社法施行規則及び会社計算規則の改正により,新たにウェブ開示の利用が可能となった事項(上記2及び3)についてウェブ開示をする場合には,株主の利益を不当に害することがないよう特に配慮しなければなりません(会社法施行規則133条の2第4項,会社計算規則133条の2第4項)。
企業がとりうる配慮の一例として,「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和2年法務省令第37号)について」には,
①できる限り早期に,ウェブ開示を開始すること
②できる限り,株主総会までに,事業報告及び計算書類のうち上記2及び3の事項に関する書面を株主に交付することが出来るように,ウェブ開示の開始後,準備ができ次第速やかに,当該書面を株主に送付すること
③株主総会の会場に来場した株主に対して,事業報告及び計算書類のうち上記2及び3の事項に関する書面を交付すること
が挙げられています。
5 施行期日・失効
上述のとおり,本省令は,新型コロナウイルス感染症の影響に対する対策のための暫定的な措置のため,公布日(令和2年5月15日)から施行日から起算して6ヶ月を経過した日(令和2年11月15日)までに限って,効力を有します(附則1条,2条)。
ただし,同日前に招集手続が開始された定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供についても,効力を有します(附則2条)。