加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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遺贈① ― 遺贈の意義

遺贈① ー 遺贈の意義

第1 はじめに

 遺産分割方法の指定及び相続分の指定では、遺言によって遺産分割の分割方法を指定を行ったり、相続分の指定を行うことができることを述べてきました。これらは相続人となる者を対象にする行為でした。

 一方で、相続人以外の者(例えば、内縁の妻や法人)に対して被相続人の財産を承継させる方法として、遺贈が挙げられます(相続人に対して遺贈を行うことも可能です)。

 本稿では、遺贈についてご説明いたします。

 

第2 遺贈とは

 遺贈とは、被相続人が遺言によって他人に自己の財産を与える行為をいいます(民法964条)。また、遺贈を受ける他人のことを受遺者と呼びます。

 遺贈は、相続人に対して行うことができるのはもちろんですが、それ以外の人に対しても行うことができます。株式会社やNPO法人のような法人に対しても遺贈を行うことも可能です。

 したがいまして、遺贈は相続人の範囲や順位を超えて遺産を移転させたい場合にとることができる有効な手段となります。

第3 包括遺贈と特定遺贈について

 遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。包括遺贈とは、相続財産の全部または一定の割合額を遺贈することをいいます。一方で特定遺贈とは、特定の財産を指定して遺贈することをいいます。

 相続財産として1500万円の価値のある土地、1000万円の価値のある建物、現金500万円が存在し、相続人としては子供だけがいる場合を例にとって考えてみた場合、内縁の妻には遺産の4割を与えるという内容の遺贈を行った場合には、包括遺贈に該当することになります。これに対して、1000万円の価値のある建物と現金500万円を内縁の妻に与えるという内容の遺贈を行った場合は、特定遺贈に該当することになります。

 

 包括遺贈を行った場合、相続人が一人増えるのと同じような効果が生じることになります(民法990条)。したがって、遺産分割の協議にも参加することになりますし、遺産に土地や建物が含まれている場合には、遺産分割が行われるまで、これらを相続人と共有することになります。上の例では、内縁の妻も遺産分割協議に参加することになりますし、4割の持分をもって土地建物を相続人と共有することになります。

 また、包括遺贈の場合、受遺者は遺言者の財産だけではなく債務も引き継ぐことになります。そのため、上の例において、被相続人が銀行から1000万円借りていた場合、4割の包括遺贈を受けた内縁の妻は、相続財産の4割だけでなく、1000万円の借金のうちの400万円の支払義務も引き継ぐことになってしまいます

 なお、包括遺贈の承認(単純承認、限定承認いずれも可能です。それぞれの意義については相続の承認と放棄をご参照ください。)や放棄も可能です。

 これに対して、特定遺贈は、贈与を受けた人と同じ地位に立つことになります。そのため、遺産分割の協議に参加することもありませんし、遺言者の債務を引き継ぐわけではありません。すなわち、上の例において、被相続人が銀行から1000万円借りていたとしても、内縁の妻は、被相続人の借金を引き継ぎませんし、被相続人の子供と遺産分割協議を行う必要もありません。

  

第4 包括遺贈を行うべきか特定遺贈を行うべきかを選択する基準

 上記のように包括遺贈と特定遺贈とでは、遺贈の対象となる財産が特定されているのかどうか、被相続人の債務まで引き継ぐことになるのか否か、相続人との遺産分割協議を行う必要があるのか否かといった点で異なっています。

 そのため、債務まで引き継がせたくない場合、譲渡する財産を確定させたい場合または受遺者を遺産分割協議に参加させない場合については、特定遺贈を行うのが良いと思われます。

 これに対して、財産を取得させる代わりに、債務も引き継がせたいと思う場合には、包括遺贈を行うのが良いと思われます。

 ただし、包括遺贈の場合、遺産分割の方法をめぐって紛争が生じてしまう危険のある遺産分割協議を行うこととなります。そのため、死後に相続人間で紛争が生じてしまうことを防ぐという見地からは、包括遺贈を行うことは控えた方がよいでしょう。

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