はじめに
令和2年4月7日,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため,7都府県(東京,神奈川,埼玉,千葉,大阪,兵庫,福岡)に緊急事態宣言が発令され,同月16日にはその対象地域が全国に拡大されました。緊急事態宣言の発令に伴い,人同士の接触の8割削減,オフィス出勤者の最低7割削減が要請され,また,人の集まる娯楽施設,商業施設,接客を伴う飲食店等の営業自粛が呼びかけられました。現在も尚,政府や各自治体において,新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため,様々な対策が進められているところです。
このような中,企業経営者の皆様におかれましても,営業を一時的に停止したり,労働者の勤務体制を大幅に変更したりするなど,労務管理の見直しを余儀なくされているところかと思います。
本稿を始めとする一連の記事では,新型コロナウイルス感染症対策を踏まえ,企業の皆様が行いうる労務管理とその導入手順,導入により受け取ることができる助成金等についてお伝えしたいと思います(※なお,本稿は令和2年4月27日に執筆されたものです)。
本稿では,新型コロナウイルス感染症対策のために,導入が検討されるであろう新たな働き方についてご紹介致します。
参照記事
新型コロナウイルス感染症対策と働き方
1 時差通勤
新型コロナウイルス感染症対策として,緊急事態宣言の発令された地域では,人同士の接触を8割削減することが要請されています。この要請を実現する方法として,社員の勤務時間を変更する時差通勤を認め,いわゆる通勤ラッシュの時間帯での社員の通勤を回避し,社員と人の接触を減らして社員の感染リスクを小さくすることが考えられます。
なお,個々の社員ごとに時差出勤の自由度を大きく定めると,社員一人一人の実労働時間の把握が煩雑になるため注意が必要です。また,打ち合わせが必要な業務や特定の時間のみ忙しくなる業務などについては,時差通勤の定め方を配慮する必要があります。
企業が新たに時差通勤の制度を導入しようとする場合,社員と個別に合意するか(労契法8条),または,就業規則を変更すること(労基法89条,労契法10条)が必要です。就業規則を変更する場合,従前の就業規則における始業と終業の時刻の定めに加えて,時差通勤制度の定めとして,時差通勤を認めること,時差通勤の形態,時差通勤制度を利用する際の手続等の必要な条項を定めることになります。その際,当該就業規則の変更が,労働条件の不合理な不利益変更にあたらないように留意する必要があります(労契法9条,10条)。
2 テレワーク
また,緊急事態宣言の発令された地域では,オフィス出勤者を最低7割削減することが要請されています。社員のオフィスへの出勤を制限し,オフィス出勤しない社員は自宅でテレワークにより就労するという方法により,上記要請に応えることができます。
テレワークは,労働時間管理やプロジェクト管理が困難であること,テレワークにより作業が可能な業務が限定的であること,セキュリティ管理等IT環境の整備が必要であることなどの難しさはありますが,ひとたび導入すれば,柔軟な勤務形態の確保による社員のライフワークバランスの向上が図ることができ,これにより生産性の向上や人材確保が見込まれます。
企業が新たにテレワークの制度を導入しようとする場合にも,社員との個別同意または就業規則の変更が必要です。就業規則を変更する場合,就業規則においてテレワークを導入すること,及びテレワーク勤務規程を別途定めることを明記した上で,テレワークの詳細については別途テレワーク勤務規程を定めるのが簡便かと思います。
テレワークを導入する際には,テレワークの性質上,社員の労働時間の把握が困難になるため,始業・終業時刻の管理方法や在席・離席の確認方法(メール,勤怠管理ツールの導入等)を明確に定め,厳格に運用する必要があります(労基法109条,労働安全衛生法66条の8の3,労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。また,テレワークの導入によりかかる費用,特に通信機器,通信回線に関する費用の負担についても,予め,会社が負担するか個人が負担するか,明確にしておく必要があります。
その他,テレワークの導入については,厚生労働省作成の下記特集ページをご参照ください。
・テレワークを活用する企業・労働者の皆さまへ テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン
また,新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規で導入する中小企業は,働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)を受け取ることができます。
この助成金は,令和2年2月17日から同年5月31日までの間に,
・テレワーク用通信機器の導入・運用
・就業規則,労使協定等の整備
・労務管理担当者への研修
・労働者への研修等
・外部専門家によるコンサルティング
のうち,いずれか1つ以上実施した中小企業に,対象経費(謝金,旅費,借損料,会議費,雑役務費,印刷製 本費,備品費,機械装置等購入費,委託費)の合計額の1/2(上限100万円)を助成するものです。厚生労働省作成の下記特集ページもご参照ください。
・働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)