遺産分割方法の指定
第1 はじめに
遺言の意義,効力と種類でご紹介いたしましたとおり,相続人間での争いを避けるためには、遺言を作成することがおすすめです。では、遺言の内容として何を定めるべきなのでしょうか。
本稿では,遺言の内容として定めておくべきと思われます遺産分割方法の指定についてご説明いたします。
第2 遺産分割方法の指定とは
遺産分割方法の指定(民法908条前段)とは、各相続人が相続する財産を具体的に特定して遺言を行うことをいいます。
相続財産に関し遺言が残されていない場合、誰がどの財産を相続するのかは、基本的には相続人間の協議(907条1項)によって決めることになります。そのため、被相続人が生前に考えていた遺産分割の方法と、相続人間で協議の結果行われた遺産分割の結果とが乖離してしまうことは少なくありません。ここで、遺言において遺産分割方法の指定をしておけば、遺産分割において被相続人の考えが反映されることが期待できます。
たとえば、被相続人である父の相続財産として8000万円の価値のある土地建物と5000万円の現金があり、相続人は被相続人の長男と次男の二人であったと仮定します。ここで、被相続人である父は、長男に土地建物を、次男に現金を相続させたいと考えていたとします。このとき、もし遺言によって遺産分割方法について指定していなかった場合、相続人である長男と次男との間で遺産分割協議が行われることになりますが、遺産分割協議で次男が法定相続分(法定相続人とその順位も併せてご参照ください。)にこだわった場合には、土地建物を売却して、長男と次男で6500万円ずつの現金を分割するということに決まってしまいかねません。
一方で、遺言において、長男に土地建物を、次男に現金を相続させる旨の遺産分割方法の指定をしておけば、通常、遺言の内容に沿った遺産分割が行われ、被相続人である父の思いが実際の相続において反映されることになります。
第3 遺言の内容と異なる遺産分割がされる可能性
なお、遺産分割について、遺言が行われている場合であっても、相続人全員が遺言の内容とは異なる遺産分割の方法に同意した場合には、遺言の内容とは異なる遺産分割が行われることになります。したがいまして、遺言を行ったからといって、必ず遺言どおりの遺産分割が行われるわけではありません。
しかしながら、故人の意思が尊重されるのが通常ですし、相続人全員の同意がなければ、遺言の内容とは異なる遺産分割を行うことができませんので、ほとんどの場合、遺言どおりの内容の遺産分割が行われることになるでしょう。
第4 相続人間での争いを回避する手段としての遺産分割方法の指定
第2で述べたとおり、遺産分割方法の指定をしておくことは、被相続人の思いを実際の相続に反映させる意味で重要です。他方で、遺産分割方法の指定は、相続人間の争いを回避するためにも有用です。
第2でも述べたように、相続財産に関し遺言が残されていない場合、誰がどの財産を相続するのかは、基本的には相続人間の遺産分割協議によって決めることになります。ところが、誰がどの財産を相続するのかについて相続人間で対立が生じてしまい、一向に話合いがまとまらないことが少なくありません。そうなると、遺産分割を行うために調停を行わなければならなくなります。さらに、調停でも遺産分割について合意できなかった場合には、家庭裁判所遺産分割の審判を求めることになります(民法907条2項)。遺産分割の協議・調停・審判の間に、相続人同士の対立がより深まることが想定されます。これに対し、遺言において遺産分割方法の指定を行っておけば、遺産分割協議を経ることなく、相続財産の分割が行われます。その結果、相続人間の争いを回避することができることになるのです。
以上より、被相続人の思いを実現する意味でも、相続人間の争いを回避する意味でも、遺言において遺産分割の分割方法の指定を行うべきです。