加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

法律情報・コラム

法律情報・コラム

遺言執行者の必要性とその役割及び選任方法

遺言執行者の必要性とその役割及び選任方法

第1 遺言執行者

 遺言にあたっては、遺言執行者を指定することができます(民法1006条1項)。法律上、遺言にあたって遺言執行者を指定することは必須とはされていませんが、遺言に記載された内容を実現し、相続人間の紛争を予防するために、遺言執行者を指定することは有用です。

 本稿では、遺言執行者の必要性とその役割及び遺言執行者の選任方法についてご説明いたします。

第2 なぜ遺言執行者が必要となるのか

 遺言がなされたとしても、それだけでは故人である被相続人の意思は実現されません。その意思が実現されるためには具体的な遺言執行手続が必要となりますが、遺言執行者が選任されていた場合、遺言執行者において具体的な遺言執行手続を円滑に進めることができます。

 例えば、遺言において、特定の財産を相続人の一人に相続させる遺言(特定財産承継遺言、改正民法1014条1項)がなされていたとすると、これを管理し、当該相続人に引き渡すことが必要となります。この点について、相続法改正によって遺言執行者は対抗要件具備行為(第三者に相続人の権利を主張するために必要となる登記、登録等の手続)を行う権限を有すると定められました(改正民法1014条2項、899条の2第1項)。

 また、相続人以外の第三者へ不動産を譲るという遺贈がなされていれば、これを実現するための引渡しや登記という手続が必要になります。この点について、改正民法1012条2項は遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができると定めています。

 他にも、遺言による相続人の廃除がなされている場合には、遺言執行者が家庭裁判所にその請求を行い、家庭裁判所による審判の確定後に戸籍上の届出をすることとなります。

 具体的な遺言の執行手続の中には、遺言執行者がおらずとも、相続人らの手で行う事ができるものもあります。しかし、相続が発生してしまうと、相続人間の利害が対立することも多く、感情的な対立となってしまうこともあるため、相続人全員の協力により遺言の内容を実現することができない場合も多々存在します。

 したがって、第三者である遺言執行者を選任しておくことは、遺言執行の手続を円滑に進行し、相続人間の争いを防止することにつながるといえるでしょう。

 なお、相続法改正の概要については、平成30年相続法改正の概要①平成30年相続法改正の概要②平成30年相続法改正の概要③をご参照ください。

第3 遺言執行者の役割

 遺言執行者は、就任すると、まず遅滞なく遺言の内容を相続人に通知し(改正民法1007条2項)、故人の相続財産を調査し、財産の目録を作成して相続人に交付します(民法1011条1項)。

 その上で、遺言執行者は、遺言の内容に従い、財産を相続人に分配し、また、相続手続が終わるまで、相続財産の管理を行います。そのため、遺言執行者は、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有すると定められています(改正民法1012条1項)。

第4 遺言執行者の選任方法

 遺言執行者の選任方法は2つあります。

 1つは、遺言において指定する方法です(民法1006条1項)。遺言により、遺言執行者が指定された場合、遺言において定められた者または相続人から、遺言において遺言執行者とされた者に対して、遺言執行者に就任するか否かを連絡することとなります(同条2項)。そして、遺言執行者とされた者が承諾した場合、この者が遺言執行者となります。実際には、遺言書の作成の段階でこれにかかわった弁護士等の法律専門家が予め了解の上で遺言執行者として指定されることが多く、遺言執行者となることを承諾しない場合は少ないものと思われます。

 もう1つの方法は、相続発生後に家庭裁判所に選任を請求する方法(民法1010条)です。利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求した場合、家庭裁判所は、遺言の内容から遺言の執行を必要と判断すれば、遺言執行者選任の審判を行います。

 このように、相続発生後に家庭裁判所に選任を請求することによっても遺言執行者を選任することができますが、この場合、選任までに一定の時間を要することになりますし、相続人及び被相続人と全く面識がなく、遺言の作成にも関与していない遺言執行者が職務を行うこととなってしまいます。

 これに対して、遺言書の作成段階から弁護士等がかかわり、当該弁護士等が遺言執行者になれば、相続人における事情や人的関係も踏まえた上で、遺言執行者に就任し、職務を行うことができるため、遺言執行手続きはより迅速かつ円滑に行われることになります。

 したがって、できるだけ、遺言の作成段階において弁護士等の関与を得て、当該法律専門家を遺言執行者と指定する遺言を行うことが得策です。

平成30年相続法改正の概要①

平成30年相続法改正の概要②

平成30年相続法改正の概要③

トップへ戻る