今回は,セクハラガイドラインの改正の概要について説明するとともに,パワハラガイドラインやセクハラガイドライン等を踏まえて,具体的にどのような対応をする必要があるのかについて説明します。
● セクハラガイドラインの改正
前記のとおり,パワハラガイドラインと同様に,セクハラガイドラインについても改正が行われましたが,これまでの対応を大きく変える改正は行われていません。
主な改正点については以下のとおりです。
・派遣先事業者による派遣労働者に対する不利益取扱いの禁止を明記
・パワハラ問題に関する事業者や労働者の責務が追加
・相談窓口の相談者の心身の状況等に対する配慮をすべき旨明記
・相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例として,相談窓口の担当者に対し,相談を受けた場合の対応についての研修を行うことが明記
・相談窓口を利用したこと等による不利益取扱いの禁止を明記
・相談窓口を一元化することが望ましい旨明記
・インターンシップを行っている者等労働者以外の者についても必要な注意を払うことが望ましい旨明記
・性的な言動を行う主体について,取引先の労働者や顧客,患者等も含まれることが明記
・雇用管理上の措置として,性的な言動の行為者が他の事業主に雇用されている者等の場合について,事実関係の確認及び再発防止措置へ協力を求めることが明記 等
● パワハラガイドラインの策定及びセクハラガイドライン等の改正に対する対応
中小事業主以外の事業主は,パワハラガイドラインやセクハラガイドライン等に従った対応を,令和2年6月までに行う必要があるため,早期に体制整備等を行っていく必要があります。
これらの体制整備に関しては,以下の優先順位で行うことが考えられます。
1 就業規則等に以下の事項を明記すること。
・パワハラ,セクハラ等の禁止
・パワハラ,セクハラ等の禁止に違反した場合の懲戒規定を創設
・パワハラ,セクハラ等に関し相談をしたこと,調査に協力したこと,労働局に対して相談,紛争解決の援助の求めや調停の申請を行ったこと,調停の出頭の求めに応じたことを理由として,解雇その他の不利益な取り扱いをされない旨の規定を創設。
具体的には,以下のような規定を就業規則等に置くことが考えられます。
就業規則
(職場におけるパワーハラスメントの禁止)
第●条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした,業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により,他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。以下,次条(セクシャルハラスメントの禁止)から第●条(不利益取扱いの禁止)まで同じ。)その他派遣労働者等会社と雇用関係なく職場内において会社の業務等に従事している者(以下,次条(セクシュアルハラスメントの禁止)から第●条(不利益取扱いの禁止)までにおいて「他の労働者等」という。)の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第●条 性的言動により,他の労働者等に不利益や不快感を与えたり,就業環境を害するようなことをしてはならない。
(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
第●条 妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により,他の労働者等の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第●条 第●条(パワーハラスメントの禁止)から前条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)までに規定するもののほか,性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより,他の労働者等の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(不利益取扱いの禁止)
第●条 第●条(パワーハラスメントの禁止)から前条(その他あらゆるハラスメントの禁止)までに規定するハラスメントに関して,会社に相談を行ったこと,会社による調査に協力したこと,労働局に対して相談を行ったこと,会社以外の機関に紛争解決の援助の求めや調停の申請を行ったこと,会社以外の機関による調停の出頭の求めに応じたことを理由として,不利益な取扱いを行ってはならない。
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(懲戒の事由)
第●条 労働者が次のいずれかに該当するときは,情状に応じ,けん責,減給又は出勤停止とする。
①・・・。
②第●条(職場におけるパワーハラスメントの禁止),第●条(セクシュアルハラスメントの禁止),第●条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止),第●条(その他あらゆるハラスメントの禁止),第●条(不利益取扱いの禁止)に違反したとき。
2 労働者が次のいずれがに該当するときは,懲戒解雇とする。ただし,平素の服務態度その他情状によっては,第●条に定める普通解雇,第●条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
①・・・
②・・・
③第●条(職場におけるパワーハラスメントの禁止),第●条(セクシュアルハラスメントの禁止),第●条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止),第●条(その他あらゆるハラスメントの禁止),第●条(不利益取扱いの禁止)に違反し,その情状が悪質と認められるとき。
④その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。
2 相談窓口の担当者を定めること。
3 相談窓口の担当者のために,マニュアルを策定し,対応への準備を行うこと。
マニュアル策定に当たっては,以下の事項を記載することが必要です。
相談があった場合における事実関係の確認の方法,パワハラ,セクハラ等に該当するか否かの検討手順,被害者に対するメンタルヘルスケア,パワハラ,セクハラ等に該当する行為があった場合の行為者及び被害者に対する措置,情報管理
併せて,相談担当者の理解を徹底させるべく,研修や講習を実施することが必要です。
4 労働者に対する周知啓発
● まとめ
以上のとおり,パワハラガイドラインの策定やセクハラガイドライン等の改正により,これらのハラスメントの禁止規定や罰則規定がない企業においては規則等に明記する必要があるところ,就業規則等の変更には時間がかかることも予想されます。
繰り返しになりますが,令和2年6月にはガイドラインを遵守した対応が求められますので,早期に対応を行っていくことが必要です。