第1 はじめに
本稿では、新設分割の手続のうち、事前備付書面、反対株主の買取請求権、債権者保護、労働者保護、事後備置書面等について説明いたします。新設分割計画、分割会社における新設分割計画の株主総会による承認の手続きについてはM&Aにおける会社分割➃ ― 新設分割の手続➀をご参照ください。
第2 事前備付書面
分割会社は、備置開始日から、効力発生後6ヶ月を経過する日まで、新設分割計画その他法務省令(規則205条)で定める事項を記載した書面または電磁的記録を本店に備置しなければなりません(803条1項2号)。なお、分割会社の株主または債権者は、営業時間内はいつでも、備置書面等について閲覧を請求し、または、会社の定めた費用を支払って謄本等の交付等を請求することができます(803条3項)。
備置開始日は、次に掲げる日のいずれか早い日をいいます(803条2項)。なお、下記①ないし④の場合以外は、新設分割計画作成の日から2週間を経過した日が備置開始日となります。
➀ 新設分割計画承認株主総会決議(種類株主総会)の2週間前の日
➁ 株主に対する通知・公告(806条3項4項)の日
➂ 新株予約権者に対する通知・公告(808条3項4項)の日
➃ 債権者保護手続きに関する公告・催告(810条2項)の日
また、新設分割における分割会社の事前備置書面の記載事項は以下のとおりです。
① |
次のⅰ)又はⅱ)に掲げる場合の区分に応じ、当該ⅰ)又はⅱ)に定める定めの相当性に関する事項 |
ⅰ)設立会社が株式会社である場合 ア 設立会社が分割会社に対して交付する株式の数(種類株式発行会社の場合には、その種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに設立会社の資本金及び準備金に関する事項(763条1項6号) イ 設立会社が分割会社に対して交付する社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法、社債等が新株予約権であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法、社債等が新株予約権付社債であるときは社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法並びに新株予約権の内容及び数又はその算定方法(763条1項8号) ウ 共同新設分割のときは、分割会社に対する株式及び社債等の割当てに関する事項(763条1項7号、9号) |
ⅱ)設立会社が持分会社である場合 ア 設立持分会社の社員の名称・住所、当該社員の出資額及び無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別(765条1項3号ロ) イ 設立持分会社が分割会社に対して交付する社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法(765条1項6号) ウ 共同新設分割のときは、分割会社に対する社債の割当てに関する事項(765条1項7号) |
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② |
分割会社が設立会社の成立の日に、ⅰ)全部取得条項付種類株式の取得に関する決定、又はⅱ)剰余金の配当(配当財産が設立会社の株式のみであるものに限る。)を行うときは、次に掲げる事項 |
ⅰ)の場合(763条1項12号イ、765条1項8号イ) 取得対価についての事項、株主に対する取得対価の割当てに関する事項、全部取得条項付種類株式を取得する日(171条1項各号) |
ⅱ)の場合(763条1項12号ロ、765条1項8号ロ) 配当財産の種類、帳簿価額の総額、株主に対する配当財産の割当てに関する事項(454条1項1号2号) |
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③ |
分割会社の全部又は一部が808条3項2号 に定める新株予約権を発行している場合において、設立会社が株式会社であるときは、763条1項10号及び11号に掲げる事項についての定めの相当性に関する事項(当該新株予約権に係る事項に限る。) |
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④ |
他の分割会社(清算株式会社及び清算持分会社を除く。)についての次に掲げる事項 |
イ 最終事業年度に係る計算書類等(最終事業年度がない場合にあっては、他の分割会社の成立の日における貸借対照表)の内容 |
ロ 最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、他の分割会社の成立の日)後の日を臨時決算日(二以上の臨時決算日がある場合にあっては、最も遅いもの)とする臨時計算書類等があるときは、当該臨時計算書類等の内容 |
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ハ 他の分割会社において最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、他の分割会社の成立の日)後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(備置開始日後、新設分割の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。) |
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⑤ |
他の分割会社(清算株式会社又は清算持分会社に限る。)が492条1項又は658条1項若しくは669条1項若しくは2項の規定により作成した貸借対照表 |
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⑥ |
分割株式会社についての次の各事項 |
イ 分割株式会社において最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、当該新設分割株式会社の成立の日)後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(新設合併契約等備置開始日後新設分割の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。) |
ロ 当該新設分割株式会社において最終事業年度がないときは、当該新設分割株式会社の成立の日における貸借対照表 |
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⑦ |
新設分割が効力を生ずる日以後における当該新設分割株式会社の債務及び新設分割設立会社の債務(当該新設分割株式会社が新設分割により新設分割設立会社に承継させるものに限る。)の履行の見込みに関する事項 |
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⑧ |
新設分割契約等備置開始日後新設分割が効力を生ずる日までの間に、前各号に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項 |
第3 反対株主の株式買取請求
分割会社において、新設分割に反対する株主については株式買取請求権が認められています(806条)。
手続・効果は吸収分割と同様です(806条、807条)。M&Aにおける会社分割③ ― 吸収分割の手続②をご参照ください。
第4 債権者保護
新設分割においても、吸収分割と同様に債権者異議手続が必要です(810条、規則208条)。M&Aにおける会社分割③ ― 吸収分割の手続②をご参照ください。
第5 労働者保護
新設分割においても、吸収分割と同様に労働者保護手続が必要です。M&Aにおける会社分割③ ― 吸収分割の手続②をご参照下さい。
第6 事後備置書面等
1 分割会社
分割会社は、設立会社成立の日後遅滞なく、設立会社と共同して、設立会社が承継した分割会社の権利義務その他の新設分割に関する事項として法務省令(規則209条)で定める事項を記載等した書面または電磁的記録を、成立の日から6か月間、本店に備え置かなければなりません(811条1項1号、2項)。
法定開示事項は以下のとおりです。
① |
新設分割が効力を生じた日 |
② |
新設分割の差止請求(805条の2)に係る手続の経過 |
③ |
反対株主の株式買取請求(806条)、新株予約権買取請求(808条)及び債権者異議(810条)の各手続の経過 |
④ |
新設分割により新設分割設立会社が新設分割会社から承継した重要な権利義務に関する事項 |
⑤ |
①から④のほか、新設分割に関する重要な事項 |
2 設立会社
設立会社は、分割会社と共同して作成した、設立会社が承継した分割会社の権利義務その他の新設分割に関する事項として法務省令(規則209条)で定める事項を記載等した書面又は電磁的記録を、成立の日から6か月間、本店に備え置かなければなりません(815条3項2号、811条1項1号)。
株主、債権者、その他利害関係人は、営業時間はいつでも、備置書面について閲覧を請求し、又は、会社の定めた費用を支払って謄本等の交付等を請求することができます(815条5項6項)。