加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

法律情報・コラム

法律情報・コラム

同一労働同一賃金⑶(実務上の対応)

 同一労働同一賃金⑴(ハマキョウレックス事件,最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号88頁)同一労働同一賃金⑵(長澤運輸事件,最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号202頁)では,正社員と非正規社員との間の格差が違法であると判断した初めての最高裁判決を2件紹介しました。

 以下では,上記2つの最高裁判決を踏まえた今後の在り方等について説明します。

● 今後の実務上の対応

1 賃金体系の見直し

 ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件は,職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度),職務の内容及び配置の変更の範囲を把握したうえで,手当ごとの区別がこれらの差異に照らして不合理であるかどうかという判断枠組みで判断しています。

 そのため,非正規社員を雇用している会社が同一労働同一賃金に対応するためには以下の手順で判断していく方法が考えられます。

① 雇用形態ごとの職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度),職務の内容及び配置の変更の範囲の把握

② 雇用形態間における待遇の相違の洗い出し,内容の把握

③ 相違のある待遇について,各待遇の趣旨・目的に照らして,不合理でないことについての説明の可否・説明内容の検討

④ ③の検討において,不合理でないとの説明ができない待遇格差が確認できた場合には,当該待遇格差に関する是正方法の立案と実行

 なお,上記手順での検討に当たっては,「短時間・有期雇用労働者及び労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(「同一労働同一賃金ガイドライン」,平成30年12月28日)を参照すべきです。

※厚生労働省告示第430号『短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針』(平成30年12月28日付け)

https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf

2 是正方法の立案と実行

 上記①ないし③からの調査・検討で不合理でないとの説明ができない待遇格差が確認できた場合に取るべき是正方法としては以下の方法が考えられます。

① パートタイム労働者,有期雇用労働者の待遇の引き上げ

② 正社員の待遇の引き下げ(ただし,労働条件の不利益変更に該当しうることには注意。)

③ 職務の内容及び配置の変更の範囲に関する差異を就業規則等の中で明確化

3 ③職務の内容及び配置の変更の範囲に関する差異を就業規則等の中で明確化する方法

 職務の内容の違いを明確化する方法としては,組織の中で,正社員が有期雇用労働者の上位にあることを就業規則の中で明記することがまず考えられます。

 具体的には,次のような規定を置くことが考えられます。

第●条 パート社員・契約社員は,正社員の指揮命令の下,就業場所において正社員の補助業務に従事するものとする。

また,配置の変更の範囲に関する差異を明確化する方法としては,次の規定を置くことが考えられます。

第●条 会社は,パート社員・契約社員に対し,本人の同意なく,個別契約で定められた「就業場所」及び「従事すべき業務」の変更を命じることはない。

● 法改正について

 平成30年6月29日,パートタイム・有期雇用労働法が成立し,令和2年4月1日(ただし,中小企業主は,令和3年4月1日。)に施行されることが予定されています。

 この法案が成立したことにより,労働契約法第20条が削除され,新たにパートタイム・有期雇用労働法第8条が正社員に係る労働条件と有期雇用労働者に係る労働条件の格差を規律することになりました。

第8条 事業主は,その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給,賞与その他の待遇のそれぞれについて,当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において,当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち,当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して,不合理と認められる相違を設けてはならない。

 労働契約法第20条と比較すると,「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」との文言が付加されていますが,ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件が手当の性質等を検討したうえで判断していることからわかるとおり,労働契約法第20条違反に関する従来の裁判例の判断方法を踏まえたものといえます。

 そのため,かかる改正によっても,正社員と非正規社員間における労働条件の相違に関する合理性(不合理性)の判断方法は特に変わらないと考えられますので,本判決については,今後の対応を検討するうえでも参考とするべき事案であるといえます。

トップへ戻る