加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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同一労働同一賃金⑵(長澤運輸事件,最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号202頁)

 同一労働同一賃金⑴(ハマキョウレックス事件,最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号88頁)に引き続き,以下では,正社員と定年後再雇用者との間の労働条件の区別が労働契約法第20条に違反するか否かが問題となった長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号202頁,以下「本判決」といいます。)について説明します。

● 事案の概要

 会社を定年退職した後に,有期労働契約を締結して会社において就労している有期労働者(以下「嘱託社員」といいます。)が,正社員との間に,労働契約法第20条に違反する労働条件の相違があると主張して,会社に対し,①主位的に,正社員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに,労働契約に基づき,上記就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額等の支払いを求め,②予備的に,不法行為に基づき,上記差額に相当する額の損害賠償を求めた事案です。

● 同一労働同一賃金に関する争い方

 同一労働同一賃金⑴(ハマキョウレックス事件,最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号88頁)と同様に,本判決でも労働契約法第20条の効力としては,正社員の労働条件と同一のものとなるものではないこと,正社員に適用される就業規則とは別に嘱託社員に適用される就業規則が定められていることなどの理由から,上記主位的請求(①)については認めませんでした。

● 本判決の判断

 基本的な判断方法は,ハマキョウレックス事件と同様に,問題となっている手当等の給付の性質や目的(どのような行為に対する対価であるか,どのような目的で給付されるものであるか等)を探求したうえで,職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して判断しています。定年後再雇用であることは,労働契約法第20条にいう「その他の事情」として考慮される旨述べているものの,このことから直ちに不合理ではないと判断してはいない点に注意が必要です。

 本判決では,能率給及び職務給,精勤手当,住宅手当及び家族手当,役付手当,時間外手当及び超勤手当,賞与の支給の区別について問題とされました。このうち,能率給及び職務給,住宅手当及び家族手当,役付手当,並びに賞与については不合理ではないと判断されましたが,精勤手当,並びに時間外手当及び超勤手当については不合理であると判断されました。

 本判決の判断をまとめると,以下のとおりとなります。

手当等の種類

結論

理由

能率給

及び職務給

不合理ではない

・再雇用社員の基本賃金の額は,いずれも定年退職時における基本給を上回っている。

・再雇用社員の歩合給に係る係数は,正社員の能率給に係る係数の約2倍から約3倍に設定されている。

・このような賃金体系に鑑みれば,再雇用社員について,正社員と異なる賃金体系を採用するに当たり,職種に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに,基本賃金の額を定年退職時の基本給の水準以上とすることによって収入の安定に配慮するとともに,歩合給に係る係数を能率給よりも高く設定することによって労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫しているということができる。

・再雇用社員の基本賃金及び歩合給が,正社員の基本給,能率給及び職務給に対応するものであることを考慮する必要があるところ,これらを比較すると,再雇用社員と正社員とを比較すると,約2パーセントから12パーセントの範囲にとどまっている。

・再雇用者は定年退職後に再雇用された者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができるうえ,再雇用社員に対し2万円の調整給を支給することとしている。

精勤手当

不合理

・精勤手当は,従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものである。

・再雇用社員と正社員との職務の内容が同一である以上,両者の間で,その皆勤を奨励する必要性に相違はない。

(なお,契約社員の歩合給に係る係数が正社員の能率給に係る係数よりも有利に設定されていることには,Yが契約社員に対して労務の対価である稼働額を増やすことを奨励する趣旨が含まれているとみることもできるが,精勤手当は,従業員の皆勤という事実に基づいて支給されるものであるから,歩合給及び能率給に係る係数が異なることをもって,再雇用社員に精勤手当を支給しないことが不合理でないということはできない。)

住宅手当及び家族手当

不合理ではない

・住宅手当は,従業員の住宅費の負担に対する補助として,家族手当は,従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助として,それぞれ支給されるものである。

・いずれの手当も労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく,従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであるから,使用者がそのような賃金項目の要否や内容を検討するに当たっては,上記の趣旨に照らして,労働者の生活に関する諸事情を考慮することになるものと解される。

・正社員には,再雇用社員と異なり,幅広い世代の労働者が存在しうるところ,そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由がある。

・他方,再雇用社員は,正社員として勤続した後に定年退職した者であり,老齢厚生年金の支給を受けることが予定され,その報酬比例部分の支給が開始されるまでは,Yから調整額を支給されることとなっているものである。

役付手当

不合理ではない

・役付手当は,正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるものであるということができる。

時間外手当及び超勤手当

不合理

・いずれも従業員の時間外労働等に対して労働基準法所定の割増賃金を支払う趣旨で支給されるものである。

・再雇用社員に精勤手当を支給しないことは,不合理であると評価することができるものに当たり,正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにも拘わらず,再雇用社員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができる。

賞与

不合理ではない

・賞与は,月齢賃金とは別に支給される一時金であり,労務の対価の後払い,功労褒賞,生活費の補助,労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含みうるものである。

・再雇用社員は,定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか,老齢厚生年金の支給を受けることが予定され,その報酬比例分の支給が開始されるまでの間は,Yから調整給の支給を受けることも予定されている。

・再雇用社員に係る採用条件によれば,再雇用者の賃金は定年退職前の79パーセント程度となることが想定されるものであり,再雇用社員の賃金体系は,再雇用者の収入の安定に配慮しながら,労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫した内容になっている。

● 本判決を踏まえた実務上の対応

 本判決を踏まえた実務上の対応については,前回説明した(同一労働同一賃金⑴(ハマキョウレックス事件,最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号88頁))と併せて,同一労働同一賃金⑶(実務上の対応)で紹介します。

 次回は,ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件を踏まえて,同一労働同一賃金に関する法改正及び今後の規程等の見直しについて説明します。

同一労働同一賃金⑶(実務上の対応)

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