加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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M&A取引における情報開示⑴‐金融商品取引法による法定開示‐

 金融商品取引法は、有価証券の発行及び交付に際して情報を開示する義務を定めているところ、M&Aの実施に当たっては、当事会社の性質及び選択するスキーム如何により、同法に定める開示義務の規律が及ぼされる場合があります。

 そのため、M&Aを実施することを検討している会社、特に上場企業が当事会社となるM&Aを実施することを検討している会社の方々は、金融商品取引法の知識を身に着けておく必要があります。

 以下では、金融商品取引法上における法定開示についてご説明します。なお、金融商品取引所主導による開示制度である適時開示については、M&Aにおける情報開示⑵‐金融商品取引所規則による適時開示‐にてご紹介しておりますので、そちらをご覧ください。

●有価証券届出書の提出

 金融商品取引法上、有価証券の募集又は売出しを行う場合、発行者は、原則として、当該募集又は売出しに関し、有価証券届出書を提出しなければなりません(金融商品取引法第4条第1項)。有価証券届出書の提出は、金融庁が所管するEDINETと呼ばれるネットワークを通じて行われ、提出された有価証券届出書は、EDINET上で公開されます。

 ここでいう「募集」とは、多数の者(50名以上)を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行うことであり、「売出し」とは、多数の者(50名以上)を相手方として、既に発行された有価証券の売付けの申込み、又はその買付けの申込みの勧誘を行うことをいいます(同法第2条第3項・第4項、同法施行令第1条の5・第1条の8)。

 そして、組織再編成(合併、会社分割、株式交換、株式移転のこと。金融商品取引法第2条の2第1項、同法施行令第2条)に関する情報開示の充実を図る観点から、組織再編成により新たに有価証券が発行又は既発行の有価証券が交付される場合において、特に特定組織再編成発行手続又は特定組織再編成交付手続に該当する行為を行うことになるときには、有価証券の募集又は売出しと同様の開示規制を負います(同法第2条の2第1項ないし第4項、同法第4条第1項本文)。

 すなわち、まず組織再編成発行手続とは、組織再編成により新たに有価証券が発行される場合における当該組織再編成に係る書面等の備置き(会社法第782条第1項・同法第803条第1項参照)その他政令で定める行為をいうところ(金融商品取引法第2条の2第2項)、特定組織再編成発行手続とは、このうち、次の要件に該当するものをいいます(同条第4項)。

① 組織再編成対象会社株主等(※1)が多数の者(50名以上、同法施行令第2条の4)である場合

② ①のほか、次のいずれにも該当しない場合

ア 組織再編成対象会社株主等が適格機関投資家のみである場合であって、当該組織再編成発行手続に係る有価証券がその取得者から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令(同法施行令第1条の4)で定める場合

イ ①及びア以外の場合であって、当該組織再編成発行手続に係る有価証券が多数の者に所有されるおそれが少ないものとして政令(同法施行令第2条の4の2)で定める場合

 また、組織再編成交付手続(金融商品取引法第2条の2第3項)とは、組織再編成により既に発行された有価証券が交付される場合における当該組織再編成に係る書面等の備置きその他政令で定める行為をいい、特定組織再編成交付手続とは、このうち、次の要件に該当するものをいいます。

① 組織再編成対象会社株主等が多数の者(50名以上、同法施行令第2条の6)である場合

② ①のほか、次のいずれにも該当しない場合

ア 組織再編成対象会社株主等が適格機関投資家のみである場合であって、当該組織再編成交付手続に係る有価証券がその取得者から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令(同法施行令第1条の7の4)で定める場合

イ ①及びア以外の場合であって、当該組織再編成交付手続に係る有価証券が多数の者に所有されるおそれが少ないものとして政令(同法施行令第2条の6の2)で定める場合

(※1)「組織再編成対象会社」とは、組織再編成により吸収合併消滅会社、新設合併消滅会社、吸収分割会社、新設分割会社、株式交換完全子会社、株式移転完全子会社となる会社をいい(金融商品取引法第2条の2第4項第1号、同法施行令第2条の2)、「組織再編成対象会社株主等」とは、「組織再編成対象会社」が発行者である株券等の所有者をいいます(金融商品取引法第2条の2第4項第1号、同法施行令第2条の3)。

 例えば、存続会社を非上場会社(非継続開示会社(※注2))、消滅会社を上場会社(継続開示会社(※注2))とする合併において、合併の対価を存続会社の株式とする方法によるM&Aの場合、消滅会社の株主が49人未満である例外的な場合を除いて、有価証券届出書の提出が必要となります。

 なお、以上にかかわらず、有価証券届出書の提出が求められるのは、当該株式の発行価格の総額が1億円以上である場合に限られますので、1億円を下回る場合には、有価証券届出書の提出義務を負いません(金融商品取引法第4条第1項第5号、企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、単に「内閣府令」といいます。)第2条第5項)。

 もっとも、この場合であっても当該株式の発行価格の総額が1000万円を超える場合については、有価証券届出書に代えて、有価証券通知書の提出が必要となります(金融商品取引法第4条第6項、内閣府令第4条第5項)。

(※注2)後述するように、特定の有価証券を発行する会社は金融商品取引法上、有価証券報告書等の報告書を開示する必要があります。本稿では、継続開示義務を負う会社を継続開示会社といい、継続開示義務を負わない会社を非継続開示会社といいます。

●継続開示

 金融商品取引法では、①金融商品取引所に上場されている株券等の発行者(金融商品取引法第24条第1項第1号)、②募集又は売出し(公募)を行った株券等の発行者(同項第3号)及び③株券等のうち、その所有者が1000以上いる場合における発行者(同項4号・同条第1項但書、施行令3条の6)について、有価証券報告書、四半期報告書(半期報告書)、臨時報告書及び内部統制報告書を作成し、提出する義務を負います。

 M&Aにおいては、以上のうち臨時報告書の提出が必要となるほか、その他報告書の提出、開示についても必要となる場合がありますので、以下この点についてご説明します。

●臨時報告書

 臨時報告書とは、継続開示義務を負う発行者が、一定の重要な事実が発生するたびに提出を義務付けられる書面であり、一定の事実が発生した後、遅滞なく内閣総理大臣に提出しなければなりません(金融商品取引法第24条の5第4項)。

 一定の重要な事実については、内閣府令第19条第2項が規定しており、例えば次のような場合をいいます。

①親会社の異動(当該提出会社の親会社であった会社が親会社でなくなること又は親会社でなかった会社が当該提出会社の親会社になることをいう。)若しくは特定子会社(※注3)の異動(当該提出会社の特定子会社であった会社が子会社でなくなること又は子会社でなかった会社が当該提出会社の特定子会社になることをいう。)があった場合

②主要株主の異動があった場合

③提出会社による子会社取得(子会社でなかった会社の発行する株式又は持分を取得する方法その他の方法(法第27条の3第1項に規定する公開買付によるものを除く。)により、当該会社を子会社とすることをいう。)で、当該子会社取得に係る対価の額に当該子会社取得の一連の行為として行った、又は行うことが当該機関により決定された当該提出会社による子会社取得に係る対価の額の合計額を合算した額が当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の15パーセント以上に相当する額であること

④提出会社が完全親会社となる株式交換で、資産が純資産額の10パーセント以上増加するか、売上高が3パーセント以上増加することが見込まれるもの、または提出会社が完全子会社となる株式交換を行う場合

⑤株式移転を行う場合

⑥資産が純資産額の10パーセント以上増減するか、売上高が3パーセント以上増減することが見込まれる吸収分割、又は資産が純資産額の10パーセント以上減少するか、売上高が3パーセント以上減少することが見込まれる新設分割を行う場合

⑦吸収合併で、資産が純資産額の10パーセント以上増加するか、売上高が3パーセント以上増加することが見込まれるもの、提出会社が消滅会社となる合併、又は新設合併を行う場合

⑧資産が純資産額の30パーセント以上増減するか、売上高が10パーセント以上増減することが見込まれる事業譲渡又は事業譲受けを行う場合

⑨代表取締役・代表執行役の異動があった場合

 例えば、先ほど例に挙げた存続会社を非上場会社(非継続開示会社)であり、消滅会社を上場会社(継続開示会社)とする合併においては、上記⑦に該当することになるため、合併当事会社たる消滅会社は、臨時報告書を提出しなければなりません。

 他方、上場会社(継続開示会社)を存続会社、非上場会社(非継続開示会社)を消滅会社とする合併において、存続会社における純資産の額が10パーセント以上増加することが見込まれず、かつ売上高も3パーセント以上増加することが見込まれない場合においては、上記⑦に該当せず、臨時報告書の提出は不要となります。

(※注3)特定子会社とは、次の一以上に該当する子会社をいいます(内閣府令第19条第10項)。

①当該提出会社の最近事業年度に対応する期間において、当該提出会社に対する売上高の総額又は仕入高の総額が当該提出会社の仕入高の総額又は売上高の総額の100分の10以上である場合

②当該提出会社の最近事業年度の末日(当該事業年度と異なる事業年度を採用している会社の場合には、当該会社については、当該末日以前に終了した直近の事業年度の末日)において純資産額が当該提出会社の純資産額の100分の30以上に相当する場合(当該提出会社の負債の総額が資産の総額以上である場合を除く。)

③資本金の額(相互会社にあっては、基金等の総額。)又は出資の額が当該提出会社の資本金の額(相互会社にあっては、基金等の総額。)の100分の10以上に相当する場合

●親会社等状況報告書

 上場会社の議決権の過半数を所有している会社その他の政令で定める会社(親会社等)は、当該親会社等の事業年度ごとに、親会社等状況報告書を提出しなければなりません(金融商品取引法第24条の7)。親会社等状況報告書において記載すべき事項は、次のとおりです(内閣府令第19条の5)。

①親会社等の名称

②株券等の状況(所有者別状況、大株主の状況)

③会社法の規定に基づく計算書類等(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、事業報告、及び附属明細書)

 提出義務者は、上場会社の親会社等に限定され、それ以外の継続開示会社の親会社は提出義務を負いません。

 このように、会社が上場会社の株式の過半数を取得するに至った場合には、当該会社は、事業年度ごとに親会社等状況報告書を提出、公開しなければならないことになりますので、例えば、非上場会社が上場会社の株式の過半数以上を取得する方法によるM&Aを実施する場合には、親会社等状況報告書の提出、公開義務を負うことに留意しておく必要があります。

●公開買付報告書

 60日間で11名以上の者から市場外で株券等を買い付け、買付け後に株券等所有割合が5パーセントを超える場合や60日間で10名以内の者から市場外で株券等を買い付け、買付け後に株券等所有割合が3分の1を超える場合等については、公開買付け(TOB)によらなければなりません(金融商品取引法第27条の2第1項第1号、同項第2号)。

 また、市場内で行う取引の中でも、①3か月以内に、株券等の総数の10パーセント超の株券等の取得を行い、②①の取得のうち、5パーセント超の取得が、市場外取引によるものである場合であって、③取得の後における株券等所有割合が3分の1を超える場合となる場合には、これらの取得に当たって公開買付け(TOB)を行う必要があります(同項第4号)。なお、同項第4号の条文上はこのように規定されておりますが、一旦公開買付け(TOB)によらない方法で取得した株券等について、遡って公開買付け(TOB)により取得することは現実的に不可能であることから、上記のような取得態様の場合、3か月間は、公開買付け(TOB)によっても3分の1を超える取得を行うことができないことになります。それゆえ、市場内取引により取得する場合にも、公開買付け規制が及びうることには注意が必要です。

 公開買付け(TOB)により株式を取得する場合、公開買付け(TOB)を行った者は、公開買付期間の末日の翌日に政令で定めるところにより、当該公開買付け(TOB)に係る応募株券等の数その他内閣府令で定める事項を、公告又は公表しなければならず(金融商品取引法第27条の13第1項)、公告又は公表を行った日にその内容その他内閣府令で定める事項を記載した公開買付報告書を内閣総理大臣に提出しなければなりません(同条第2項)。

 このように、公開買付け(TOB)による株式を取得する方法によるM&Aでは、買収者は、公開買付け(TOB)に係る事実を公表し、公開買付報告書を提出する必要があります。

●大量保有報告書

 株券等の保有割合が5パーセントを超えた保有者は、大量保有者となってから5営業日以内に内閣総理大臣に対し大量保有報告書を提出する必要があります(金融商品取引法第27条の23)。

 大量保有報告書で開示すべき事項は、次のとおりです(株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令第2条)。

①保有者及び共同保有者の住所・氏名、事業内容等

②株券等保有割合に関する事項

③取得資金に関する事項

④最近60日間の取得または処分の状況等(以上につき、大量保有府令第1号書式。)

 そのため、株式の取得によるM&Aを行う場合にあっては、買収者は、取得株式が買収対象会社の株式の5パーセントを保有することとなるときには、大量保有報告書を提出する義務があることに留意する必要があります。

●まとめ

 以上までに紹介したように、上場会社等継続開示義務を負う会社を一方当事者とするM&Aにおいては、金融商品取引法により、報告書の提出、開示が求められる場合があります。

 そして、提出及び公表の時期については、法令のみならず解釈に委ねられている部分も多く、事前のスケジューリングに組み込んでおく必要があるため、特に上場会社が関係するM&Aを実施するに当たっては、金融商品取引法に精通した弁護士等の専門家による関与が必要であるといえます。

以上

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