加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

法律情報・コラム

法律情報・コラム

M&Aと独占禁止法⑴

●はじめに

 独占禁止法では、第4章(9条から18条まで)において、企業結合に関する規制を設けております。

 大規模の会社が関係するM&Aや規模がそれほど大きくなくとも市場占有率(シェア)が大きい会社が関係するM&Aでは、企業結合規制に違反しないよう注意する必要があります。

 企業結合規制に違反した場合、公正取引委員会は、同法第17条の2に基づき、事業者に対し、株式の全部又は一部の処分、事業の一部の譲渡その他必要な措置を命ずる措置(排除措置命令)を行う場合があります。

 また、排除措置命令が行われないまでも、公正取引委員会は、企業結合審査の過程で問題があると考えた場合、当事者に対し、一定の適切な措置を講ずるよう求めることがあります(以下、このような措置を「問題解消措置」といいます。)。

 排除措置命令が執られた場合や問題解消措置が求められた場合、当初計画してきたスキームでは、事実上M&Aを実施することが極めて困難となってしまうため、M&Aの実施に当たり、企業結合規制に精通しておくことは極めて重要です。

 以下では、企業結合規制について説明します。

●企業結合規制の概要

・実体的規制

 独占禁止法第4章では、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、企業結合を禁止しています。

 ここにいう企業結合とは、複数の企業が株式保有、合併等により一定程度又は完全に一体化して事業活動を行う関係が形成・維持・強化されることをいい、具体的には、以下の行為類型ごとに規制が行われております。

⑴株式保有

⑵役員の兼任

⑶合併

⑷会社分割

⑸共同株式移転

⑹事業譲受け等

 また、一定の取引分野とは企業結合に競争が制限されることとなるか否かを判断するための範囲を示すものであり、一定の取引の対象となる商品又は役務の範囲、地理的範囲等に関して、需要の代替性という観点から判断されます。

 「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことをいいます(東宝・新東宝事件、東京高裁昭和28年12月7日判決・行集4巻12号3215頁)。

 「こととなる」とは、企業結合により、競争の実質的制限が必然ではないが、容易に現出し得る状況がもたらされることで足りるとする蓋然性を意味するものと考えられています。

 すなわち、企業結合により市場構造が非競争的に変化して、当事者が単独で又は他の会社と協調的行動をとることによって、ある程度自由に価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができる状態が容易に現出し得るとみられる場合には、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなります。

・手続的規制

1 事前届出制度

⑴ 届出が必要となる場合

 会社が株式取得、合併、会社分割、共同株式移転及び事業の譲受け(以下「株式取得等」といいます。)を行う場合において、これらが売上高をベースにした一定の要件に該当する当事者間において行われるときは、当事者の一方又は双方は、公正取引委員会に対し、これらの行為に係る計画(以下「企業結合計画」といいます。)を事前に届け出なければなりません(独占禁止法第10条、第15条、第15条の2、第15条の3、第16条)。届出を怠った場合、怠った者は200万円以下の罰金に処せられることがあり、怠った者が、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員である場合には、その法人又は人もまた200万円以下の罰金に処せられる場合があります(同法第91条の2、第95条)。

 事前届出が必要となる場合についてまとめると、次のとおりとなります。

番号

企業結合行為

要件

株式取得

 下記の要件①に該当する会社が下記の要件②に該当する会社の株式を取得しようとする場合において、下記の要件③に該当することとなった場合に事前の届出が必要となります。

①株式を取得しようとする会社及び当該会社の属する企業結合集団(注1)に属する当該会社以外の会社等の国内売上高の合計額が200億円を超える場合

②株式発行会社及びその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える場合

③株式発行会社の株式を取得しようとする場合において、株式発行会社の総株主の議決権の数に占める届出会社が取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権の数と届出会社の属する企業結合集団に属する当該届出会社以外の会社等が所有する当該株式発行会社の株式に係る議決権の数とを合計した議決権の数の割合(議決権保有割合)が新たに20パーセント又は50パーセントを超えることとなる場合

※ただし、合併又は分割により上記要件に該当することがあるときは、「合併に関する計画届出書」等の所定の欄に当該事項を記載することにより、「株式取得に関する計画届出書」の提出は不要となります。

合併

 合併をしようとする会社のうち、いずれ1社に係る国内売上高の合計額が200億円を超え、かつ、他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合

※ただし、全ての合併会社が同一の企業結合集団に属する場合は届出が不要となります。

共同新設分割

①共同新設分割をしようとする会社のうち、いずれか1社(全部承継会社(注2)に限ります。)に係る国内売上高の合計額が200億円を超え、かつ他のいずれか1社(全部承継会社に限ります。)に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合、

②共同新設分割をしようとする会社のうち、いずれか1社(全部承継会社に限ります。)に係る国内売上高合計額が200億円を超え、かつ他のいずれか1社(重要部分承継会社(注3)に限ります。)の当該承継の対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合、

③共同新設分割をしようとする会社のうち、いずれか1社(全部承継会社に限ります。)に係る国内売上高合計額が50億円を超え、かつ他のいずれか1社(重要部分承継会社に限ります。)の当該承継部分に係る国内売上高が100億円を超える場合、

又は

④共同新設分割をしようとする会社のうち、いずれか1社(重要部分承継会社に限ります。)の当該承継の対象部分に係る国内売上高が100億円を超え、かつ他のいずれか1社の当該承継の対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合

※ただし、全ての共同新設分割をしようとする会社が同一の企業結合集団に属する場合は届出が不要となります。

吸収分割

①吸収分割をしようとする会社のうち、分割をしようとするいずれか1社(全部承継会社に限ります。)に係る国内売上高合計額が200億円を超え、かつ分割によって事業を承継しようとする会社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合、

②吸収分割をしようとする会社のうち、分割をしようとするいずれか1社(全部承継会社に限ります。)に係る国内売上高合計額が50億円を超え、かつ分割によって事業を承継しようとする会社に係る国内売上高合計額が200億円を超える場合(但し、①に該当する場合を除きます。)、

③吸収分割をしようとする会社のうち、分割をしようとするいずれか1社(重要部分承継会社に限ります。)の当該分割の対象部分に係る国内売上高が100億円を超え、かつ分割によって事業を承継しようとする会社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合、

又は

④吸収分割をしようとする会社のうち、分割をしようとするいずれか1社(重要部分承継会社に限ります。)の当該分割の対象部分に係る国内売上高が30億円を超え、かつ分割によって事業を承継しようとする会社に係る国内売上高合計額が200億円を超える場合(②に該当する場合を除きます。)

※ただし、全ての吸収分割をしようとする会社が同一の企業結合集団に属する場合は届出が不要となります。

共同株式移転

 共同株式移転をしようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高合計額が200億円を超え、かつ他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合

事業等の譲受け

 国内売上高合計額が200億円を超える会社(譲受会社)が、

①国内売上高が30億円を超える会社の事業の全部の譲受けをしようとする場合、

②他の会社の事業の重要部分(※注4)の譲受けをしようとする場合であって、当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合、

又は

③他の会社の事業上の固定資産の全部又は重要部分の譲受けをしようとする場合であって、当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合

※事業等の譲受けをしようとする会社及び事業等の譲渡をしようとする会社が同一の企業結合集団に属する場合は、届出が不要となります。

(注1):「企業結合集団」とは、会社及び当該会社の子会社並びに当該会社の最終親会社及び当該最終親会社の子会社からなる集団をいいます。ただし、当該会社に親会社がない場合には、当該会社が最終親会社となりますので、当該会社とその子会社からなる集団が企業結合集団となります。

(注2):「全部承継会社」とは、共同新設分割又は吸収分割でその事業の全部を別の会社に承継させようとする会社をいいます。

(注3):「重要部分承継会社」とは、共同新設分割又は吸収分割でその事業の重要部分を別の会社に承継させようとする会社をいいます。

(注4):「重要部分」とは、譲渡会社にとっての重要部分を意味し、原則として、当該譲渡対象部分が1つの経営単位として機能し得るような形態を備え、譲渡会社の事業実態からみて客観的に価値を有していると認められる場合を指します。

⑵届出に必要な資料

番号

企業結合行為

届出に必要な書類

株式取得

①株式取得に関する計画届出書

②株式の取得に関する契約書の写し又は意思決定を証するに足りる書類

③株式の取得に関し株主総会の決議又は総社員の同意があったときには、その決議又は同意の記録の写し

④届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

合併

①合併に関する計画届出書

②届出会社の(合併当事会社の全てをいいます。)の定款

③合併契約書の写し

④届出会社の最近一事業年度の事業報告、貸借対照表及び損益計算書

⑤届出会社の総株主の議決権の100分の1を超えて保有する者の名簿

⑥届出会社において当該合併に関し株主総会の決意又は総社員の同意があった時は、その決議又は同意の記録の写し

⑦届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

共同新設分割

吸収分割

①会社分割に関する計画届出書

②届出会社(分割の当事会社全てをいう。以下同じ。)の定款

③分割計画書又は分割契約書の写し

④届出会社の最近一事業年度の事業報告、貸借対照表及び損益計算書

⑤届出会社において当該分割に関し株主総会又は社員総会の決議があったときには、その決議の記録の写し

⑥届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

共同株式移転

①共同株式移転に関する計画届出書

②届出会社(共同株式移転当事会社の全てをいう。)の定款

③共同株式移転計画書又は共同株式移転契約書の写し

④届出会社の最近一事業年度の事業報告、貸借対照表及び損益計算書

⑤届出会社の総株主の議決権の100分の1を超えて保有するものの名簿

⑥届出会社において当該共同株主移転に関し株主総会の決議又は総社員の同意があった時は、その決議又は同意の記録の写し

⑦届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

事業等の譲受け

①事業等の譲受けに関する計画届出書

②届出会社及び相手会社の定款

③当該行為に関する契約書の写し

④届出会社及び相手会社の最近一事業年度の事業報告、貸借対照表及び損益計算書

⑤届出会社及び相手会社の総株主の議決権の100分の1を超えて保有するものの名簿

⑥届出会社及び相手会社において当該行為に関し株主総会の決議又は総社員の同意があった時は、その決議又は同意の記録の写し

⑦届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

2 第1次審査

 公正取引委員会が届出会社から届出書を受理した場合、公正取引委員会は、第1次審査を行います。

 第1次審査とは、より詳細な審査が必要であるとして、届出会社に対し、独占禁止法第10条第9項(同法第15条第3項等において読み替えて準用する場合を含みます。)に規定する必要な報告、情報又は資料の提出(以下「報告等」といいます。)の要請以降に行うものを除く企業結合審査をいいます。なお、報告等の要請以降に行う企業結合審査を「第2次審査」といいます。

 届出会社による届出が受理された場合、届出会社は、届出受理の日から30日を経過するまでの期間は当該株式取得等を行うことができません(独占禁止法第10条第8項但書、同法第15条第3項等において読み替えて準用する場合を含みます。)。

 第1次審査の結果、企業結合計画について独占禁止法上問題がないと判断した場合、公正取引委員会は、届出規則第9条の規定により、事業者等に対して排除措置命令を行わない旨の通知を行います。排除措置命令を行わない旨の通知は、公正取引委員会が当該企業結合を実施することが問題ない旨のお墨付きを与えることを意味するものであるから、いわば独占禁止法上の問題が「クリア」となったということができます。その意味で、当該通知について、実務では、クリアランスの取得と呼ばれています。

 他方、より詳細な審査が必要であると判断した場合、公正取引委員会は、事業者等に対して、報告等の要請を行い、又は独占禁止法違反の疑いについて公正取引委員会と事業者等との間の合意により自主的に解決するための独占禁止法第48条のから第48条の9までに規定する手続に係る独占禁止法第48条の2の規定による通知(以下「確約手続通知」といいます。)を行います。

3 第2次審査

 公正取引委員会が届出会社に対し報告等の要請を行い、より詳細な企業結合審査である第2次審査が行われます。

 第2次審査では、報告等に重要な事項につき虚偽の記載等がある場合などを除き、届出受理の日から120日を経過した日と全ての報告等を受理した日から90日を経過した日とのいずれか遅い日までの期間内に、独占禁止法上問題がないとして、排除措置命令を行わない旨の通知をするか(クリアランス)、確約手続通知を行うか、又は独占禁止法第50条第1項の規定による意見聴取の通知(以下「意見聴取の通知」といいます。)をするか、いずれかの対応を執ることになります。

4 事前届出以降の企業結合審査の流れ

 以上まとめると、企業結合審査の流れは、次のとおりとなります。

図2.jpg

(出典:公正取引委員会「企業結合審査の考え方について(参考資料)(平成29年12月6日事務総長定例記者会見配布資料)」2頁)

M&Aと独占禁止法⑵

-1-

トップへ戻る