加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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改正独占禁止法成立

 改正独占禁止法が、令和元年6月19日、第198回通常国会にて成立しました。

 施行の期日は、令和2年末頃を予定しているとのことです。

 今回の改正は、課徴金制度の見直しが主たる目的となっております。課徴金の額は、基本的に一定期間の対象商品・役務の売上をベースに算定されますので、非常に高額となるケースも多く見られます。そのため、課徴金が一旦課せられた場合、企業にとって極めて不利益となる結果をもたらすため、企業の方は、課徴金制度に関して一定の知識を持っておく必要があると思われます。

 以下では、今回の改正点をご説明し、その説明に当たり必要な限りで現行の制度もご説明します。

 まず、先ほど述べたように、今回の改正は、課徴金制度の見直しが主な目的にありました。具体的には主に課徴金減免制度について改正が行われております。

 どのような視点で改正されたかというと、現行の課徴金制度が一律かつ画一的に算定・賦課するものであるため、公正取引委員会に対する協力の程度を課徴金額に反映させることができないなど、柔軟な運用を行うことができない点が問題視されていました。かかる問題意識から、公正取引委員会の調査に協力するインセンティブを高める仕組みを導入し、事業者と公正取引委員会の協力による効率的・効果的な事態解明・事件処理を行う領域を拡大するとともに、複雑化する経済環境に応じて適切な課徴金を課することを可能とするという視点から、今回の改正が行われました。

●課徴金とは

 課徴金とは、カルテル・入札談合等の違反行為防止のために、行政庁が違反事業者又は違反事業者団体に対して課す金銭的不利益のことをいいます。

 具体的には、ある事業者又は事業者団体が課徴金の対象となる独占禁止法違反行為を行っていた場合、公正取引委員会が当該事業者等に対し課徴金を国庫に納付することを命じるものをいいます(「課徴金納付命令」)。

 課徴金の対象となる独占禁止法違反行為は、①不当な取引制限(独占禁止法第7条の2第1項)、②私的独占(同法第7条の2第2項、第4項)、③不公正な取引方法のうち「共同の取引拒絶」、「差別対価」、「不当廉売」、「再販売価格の拘束」、「優越的地位の濫用」(同第20条の2ないし同条の6)です。

●現行法における課徴金の計算方法

 現行法において、課徴金の額は、次の計算により算出されます。

課徴金の額=対象商品・役務の売上額(算定期間:最長3年)×課徴金算定率(基本10%)-課徴金減免制度による減免(減免率は申請順位のみで決定)

 なお、上記「対象商品・役務の売上額」における算定期間の始期は、違反行為の内容を現実の事業活動において最初に実現した日をいい、終期は、実行としての事業活動を行わなくなった日をいい、始期から終期までの期間が3年を超える場合については、終期からさかのぼって3年間における対象商品・役務の売上額が算定基礎とされることになります。

 以上を前提に、平成21年4月1日から価格引き上げカルテルを行い、平成31年3月31日までの間に100億円、平成28年4月1日から平成31年3月31日までの間に10億円の売上を得たところ、調査開始日前に第2順位で課徴金減免制度の申請を行った事業者を例に課徴金の額を算定すると次のとおりとなります。

 10億円(3年間における対象商品・役務の売上額)×10%(課徴金算定率)-(10億円(3年間における対象商品・役務の売上額)×10%(課徴金算定率)×50%(減免率))

=5000万円

●改正独占禁止法における課徴金の計算方法

 今回の独占禁止法による改正では、上記課徴金の額の算定方法が次のように変わることになります。

 まず、前記のとおり、対象商品役務の売上額に関する算定期間が現行では最長3年とされていたのに対し、改正独占禁止法では、調査開始日の10年前まで遡ることができるようになりました。さらに、対象商品・役務の売上額だけでなく、対象商品・役務を供給しないことの見返りとして受けた経済的利得(談合金等)、対象商品・役務に密接に関連する業務(下請受注等)によって生じた売上額、及び違反事業者から指示や情報を受けた一定のグループ企業(完全子会社等)の売上額についても、算定基礎に追加することができるようになりました。

 また、課徴金減免制度による減免については、減免を受けることができる者の範囲が拡大されたほか、協力度合いに応じて減免率の付加の恩恵を与えることも可能となりました。詳細については次のとおりです。

【現行法】

・調査開始前

申請順位1位      全額免除

  同 2位      50パーセント

  同 3位ないし5位 30パーセント

  同 6位以下    なし

・調査開始後

申請順位最大3社    30パーセント

  同 上記以下    なし

※「最大3社」・・・調査開始日前と合わせて5位以内の会社。以下同じ。

【改正独占禁止法】

・調査開始前

申請順位1位      全額免除

  同 2位      20パーセント

  同 3位ないし5位 10パーセント

  同 6位以下    5パーセント

※但し、2位以下については、協力度合いに応じて最大40パーセント減算される場合があります。

・調査開始後

申請順位最大3社    10パーセント

  同 上記以下    5パーセント

※但し、協力度合いに応じて最大20パーセント減算される場合があります。

 以上を前提に、先ほど例に挙げた価格引き上げカルテルを行った事業者における課徴金の算定は、次のとおりとなります。

 100億円(10年間における対象商品・役務の売上額)×10%(課徴金算定率)-(100億円(10年間における対象商品・役務の売上額)×10%(課徴金算定率)×(20%(減免率)+0%~40%(協力度合いに応じた減算率)))

=4億~8億(協力度合いに応じた減算率により変動)

●弁護士・依頼者間秘匿特権

 以上に述べた課徴金減免制度に関する改正のほかに、かかる改正による機能をより充実させるため、弁護士との相談に係る法的意見等についての秘密を実質的に保護し、適正手続を確保する観点から、不当な取引制限に係る行政調査手続を対象として、次の内容の制度が独占禁止法第76条に基づく規則、指針等によって整備されることになりました。

 すなわち、不当な取引制限に関する法的意見について事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容を記載した文書で、要件を充たすことが確認されたものは、審査官がアクセスすることなく、速やかに事業者に還付されることとされています。

 物件としては、事業者から弁護士に送付された事件相談に関する文書、弁護士から事業者に送付された回答書、弁護士が行った社内調査に基づく法的意見が記載された報告書、弁護士が出席する社内会議でその弁護士との間で行われた法的意見についてのやり取りが記載された社内会議メモ等が対象となります。一方、弁護士への相談前から存在する一次資料、相談の基礎となる事実を収集して取りまとめた事実調査資料は除外されます。また、独占禁止法の不当な取引制限以外の規定又は他法令に関する法的意見等の内容を記載した資料も除外されます。

 また、基本的には、外部弁護士(事業者と雇用関係にない者)が対象とされますが、違反事実の発覚等を契機として、雇用主である事業者からの指示による指揮命令監督下になく、独立して法律事務を行うことが明らかな場合には、社内弁護士も対象となります。

 制度適用の要件として、①公正取引委員会による提出命令時に事業者が本制度の取扱いを求めること、②適切な保管がされていること、③提出命令後、一定期間内に、文書ごとに作成日時、作成者・共有者の氏名、物件の属性、概要等を記載した文書(ログ)を提出すること、④本制度の対象外の資料が含まれている場合には、その内容を報告することが必要とされています。

 今回の改正で新たに設けられた依頼者・事業間秘密特権の制度は、不当な取引制限に関する行政調査手続に限定されているという点で不十分であるとの意見もあり、今後は、犯則調査手続を含む独占禁止法に基づく調査手続全般に拡大されることが期待されます。

●小括

 事業者にとって課徴金納付命令が課された場合のインパクトは非常に大きく、課徴金の負担のみならず、報道による企業イメージの低下等の影響は非常に強いものとなるおそれがあります。

 そのため、一旦公正取引委員会から調査の対象とされた場合にあっては、早期に弁護士と相談のうえ、公正取引委員会との対応等方針の決定を行っていく必要があるところ、今回の改正において、事業者・弁護士間の秘匿特権が明確化されたことは事業者の権利利益を守るものとして、一つ大きな前進となったと考えられます。

 他方、先ほど述べたとおり、当該秘匿特権が行政調査手続に限定されているという点でまだまだ不十分であり、今後当該秘匿特権の運用を踏まえつつ、さらなる改正が待たれるところです。

 また、今回の独占禁止法の改正により、調査への協力度合いに応じて減免率を上乗せすることが可能となりました。改正前では、課徴金減免制度の申告を行った途端に、調査に非協力的となる事業者も存在したところ、改正独占禁止法では、より大きな減免率の獲得を狙って、協力的な事業者が増加することが見込まれますので、改正前における事業者のような例は少なくなるのではないかと考えられます。

 もっとも、調査への協力度合いというのは非常に抽象的であり、このような抽象的な規定をもって、減免率の上乗せという極めて大きな恩恵を与えることが可能であるということには公正取引委員会による恣意的運用への不安を抱かざるを得ません。

 今後、調査への協力度合いについていかなる方法で評価しているのか、公平に適用されているのか等、公正取引委員会による運用を注視していく必要があると考えられます。

以 上

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