1700万円の定額年俸に残業代も含む旨の合意が医師・病院間に存在した事案につき、最高裁は、1審、2審の判断を覆し、当該年俸には残業代は含まれていないと判断して、これに反する原審の判断を破棄し、差し戻しました(最高裁第二小法廷平成29年7月7日判決)。
1審、2審は、年俸が高額であることに着目し、残業代は年俸に含まれていると判断していました。
これに対し、最高裁は、年俸の額に着目することなく、
①残業代が年俸に含まれていたといえるためには、年俸のうち残業代部分の額が、法(労働基準法37条)が定める額を下回らないか否かを検討する必要があるところ、
②その検討の前提として、年俸のうち、基本給部分と残業代部分とが(金額的に)明確に区分されていなければならないとの一般論を述べ、
本件の場合、上記②の区分がなされていないので、残業代が支払われていたということはできないと結論付けました。
本判決の示した一般論は、これまでも是認されていたものではありますが、裁判例上、高額の給与が支給されて至る場合には、それが残業代を含む趣旨であることは明らかであるとして、上記②(明確に区分されているか否か)を問題としない例が散見されていました。
本判決は、上記一般論が(年俸の多寡にかかわりなく)形式的に適用されるべきものであることを明らかにした点で、重要な判決といえます。
高度に専門的な職種の労働者に関して、残業代込みという趣旨で高額の賃金を支払うケースは少なくないと思われますが、このような場合であっても、基本給部分と残業代部分とが明確に区分していないと、残業代が未払いであったということになりかねませんので注意が必要です。
(参考)