公正取引委員会は、平成30年2月15日、「人材と競争政策に関する検討会報告書」を公表しました。人材と競争政策に関する検討会とは、競争政策センター内に設置されたもので、個人が個人として働きやすい環境を実現するために、人材の獲得を巡る競争に対する独占禁止法の適用関係及び適用の考え方を理論的に整理するため、平成29年8月から会議が開催されていたものです。
同報告書の内容は、企業と雇用契約を結ばずに働く技術者やスポーツ選手らフリーランス人材について、独禁法を適用するための運用指針(以下「本件指針」と言います。)が記載されています。例えば、企業が人材を過剰に囲い込んだり、生み出した成果に利用制限をかけたりする行為について、同法違反の恐れがあると明確に位置づけました。これは、働き方の多様化やシェアリングサービスの拡大、技術者やスポーツ選手などの契約実務が現状に追い付いていない点を踏まえ、適正な額の報酬や不利な取引条件の押し付け等を制限し、よって、フリーランスの労働環境を改善することが目的であるとされています。
また、本件指針では独禁法に違反する具体的な行為が指摘されています。
例えば、企業が「秘密保持契約」を盾に競合他社との契約を過度に制限したり、イラストやソフトなどの成果物に必要以上に利用制限や転用制限をかけたりすれば、「優越的地位の乱用」にあたる恐れがあること、また、複数の同業他社間で賃金の上昇を防ぐために、「互いに人材の引き抜きはしない」と申し合わせれば、カルテルと判断されることが指摘されています。
ところで、日本では独禁法の制定時、「労働の提供は事業ではない」(立法を担当した橋本龍伍元厚相)との考え方が強く、長らく労働分野には適用されていませんでした。公正取引委員会は、今回初めて労働分野にも独禁法が適用されることを明確にしました。もっとも、本件指針は、あくまでフリーランスと企業の契約を巡るもので、公取委は労働組合を「カルテル」として摘発したり、上司と部下の関係に「優越的地位の乱用」を適用したりすることはないとしています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26984910W8A210C1EA2000/
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/feb/20180215.html