タクシー会社の国際自動車に勤務する運転手14人が,実質的に残業代などの割増賃金が支払われない賃金規則は無効だとして未払い賃金の支払いを求めた訴訟で,最高裁は2月28日,規則を無効とした二審判決を破棄し,審理を東京高裁に差し戻しました。
同社の賃金規則では,基本給の他に売上に応じた「歩合給」が支払われることになっていましたが,歩合給を計算する際には,残業代などに相当する金額を差し引くという規則がありました。このような賃金規則につき,一審・二審は,割増賃金の支払い義務を定めた労働基準法37条の趣旨に反し,公序良俗違反で無効であると判断していました。
これに対し最高裁は,まず,使用者が労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであるとしたうえで,割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである,としています。
他方で,最高裁は,労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないとしています。そのうえで,最高裁は,原審につき,本件規定のうち歩合給の計算に当たり割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法37条の趣旨に反し,公序良俗に反し無効であると判断するのみで,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か,また,そのような判別をすることができる場合に,本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断していないため,原審の判断には違法があると結論付けています。