住友商事とKDDIによるジュピターテレコム(JCOM)の買収にあたり,TOB(株式公開買付)に応じない株主から強制的に株式を買い取る際の価格が相当な価格かどうかが争われた訴訟につき,最高裁は7月1日,本件のような一般に公正と認められる手続が経られている状況においては,株式の取得価格はTOB価格と同額が相当であり,価格は適正であるとの判断をし,TOB価格より高額な価格を適正価格とした原決定を破棄しました。
本件は,住友商事及びKDDIが,JCOM株についてTOBを行い,これに応じなかった株主については,JCOM株を全部取得条項付種類株式とし,TOB価格と同額で取得しようとしたものですが,最高裁は,
「多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。」
とし,本件における取得価格についても,TOB価格と同額となるものというべきである旨を述べました。
原決定は,TOB公表後の事情を考慮した補正を行い,TOB価格より高額な取得価格を定めていましたが,最高裁は,上記のような一般に公正と認められる手続が経られたうえでTOBが行われた場合には,取得価格は,その取得日までに生ずべき市場の一般的な価格変動についても織り込んだうえで定められているということができ,このような場合にまで,TOB公表後の事情を考慮した補正をするなどして改めて取得価格を算定することは,原則として裁判所の合理的な裁量を超えたものと言わざるを得ない,と述べています。
なお,本件最高裁判決では,「会社法172条1項に基づく全部取得条項付種類株式の取得価格の決定に関する裁判所の合理的な裁量の在り方」について,小池裕裁判官の補足意見が述べられており,参考になります。