1 課徴金納付命令勧告について
12月7日、東芝の有価証券報告書等虚偽記載に関し、証券取引等監視委員会が、東芝に対し73億7350万円の課徴金納付命令を出すように金融庁に勧告しました。
http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2015/2015/20151207-1.htm
流通市場における金融商品取引法上の継続開示書類である有価証券報告書については、平成24年3月期、平成25年3月期のものが課徴金の対象とされました。虚偽記載の内容としては、両期とも連結損益計算書における連結当期純利益の過大計上が問題とされています。
課徴金額は、平成24年3月期については、92,270,000円、平成25年3月期については、81,230,000円です。
また、東芝は、会計不正が行われていた期間に社債を発行していたため、発行市場における開示書類である発行登録追補書類を提出し、社債を取得させたことについても課徴金納付命令の勧告がなされています。これは発行登録追補書類の参照書類とされた平成22年3月期、平成24年3月期、平成25年3月期の有価証券報告書に虚偽記載があることによるものです。
社債を発行したことによる課徴金は、資金調達額に比例するため、企業規模が大きく資金調達額も多い東芝の場合では計72億円にも上ります。過去最大の金額であったIHIの有価証券報告書等虚偽記載事件における課徴金が約16億円であったのに比較して東芝の課徴金額が巨額となったのは、会計不正があった期間における資金調達額が巨額であったことが原因と言えます。
ここで、流通市場における継続開示書類としては問題とされなかった平成22年3月期の有価証券報告書が、発行市場における開示書類としては問題とされている点に疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。これは、金融商品取引法上、審判開始期限が5年と法定されており、その起算時が前者は有価証券報告書を提出した日(金商法178条11項)、後者は登録追補書類を提出した日(金商法178条7項)とされていることによるものと考えられます。東芝の平成22年3月期の有価証券報告書は平成22年6月下旬に提出されており、一方それを参照書類とした発行登録追補書類は平成22年12月9日に提出されているのです。
今後、金融庁により審判手続開始が決定され、審判手続を経て、課徴金納付命令が発出される流れとなります。以前も説明したとおり、東芝は審判で争うこともできますが、違反事実及び課徴金の額を認める旨の答弁書を提出することが予想されます。
2 刑事告発について
以前、東芝旧経営陣が、有価証券報告書虚偽記載について刑事責任を追及される可能性は高くないと説明しましたが、少し雲行きが怪しくなってきたようです。
証券取引等監視委員会が歴代3社長の刑事告発が可能か調査を本格化させる旨報道されています。
http://www.sankei.com/affairs/news/151208/afr1512080005-n1.html
また、麻生太郎金融担当大臣も刑事責任について「告発が妨げられるものではない」と発言した旨報道されています。
http://www.sankei.com/economy/news/151208/ecn1512080018-n1.html
っとも、以前説明したとおり、刑事処分を科すには故意犯である必要があるので、最終的には刑事告発に至らない可能性も十分あると思われます。
3 東芝による旧経営陣に対する損害賠償請求訴訟について
11月7日に、東芝が旧経営陣5名に対し金3億円の損害賠償請求訴訟を提起したこと、そして請求額が比較的低額であったことなどから批判が強いことは以前説明いたしました。
この度の課徴金納付命令勧告を受けて、東芝も損害賠償請求額を増額する旨明らかにしています。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO94883740Y5A201C1TJC000/
大規模な企業不祥事発生後の企業の対応としては、『過去との決別』を社会に対し強くアピールすることが重要です。東芝は、折角提起した旧経営陣に対する損害賠償請求について批判を受け、また第三者委員会の調査報告書に対しても一部で低く評価されるなど、危機対応で躓いている印象です。
http://jp.reuters.com/article/idJPL3N13D2R220151126
4 投資者訴訟について
最後に投資者訴訟(株主訴訟、証券訴訟)についてですが、奇しくも課徴金納付命令勧告がなされたのと同日の12月7日に、株主・元株主による損害賠償請求訴訟が東京地裁に提起されました。原告は個人株主ら50名、被告は東芝と旧経営陣5名、請求額は約3億円と報道されています。また、14日には大阪地裁、21日は福岡地裁でも集団訴訟が 提起されるとのことです。
http://www.asahi.com/articles/ASHD600NYHD5UTIL01Q.html
原告の株式取得時期など詳細はわかりませんが、予想される争点としては、以下の4点が考えられます。
①原告は有価証券報告書に虚偽記載がなければ株式を取得しなかったといえるか
②東芝の株価下落額のうち虚偽記載に起因する値下がり額はいくらか
③金商法21条の2第3項の「公表日」はいつか
④旧経営陣5名の役員が虚偽記載について相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったか(金商法21条2項1号)
既に株式を売却した原告については、一部であっても損害賠償請求が認められる可能性は濃厚ですが、一筋縄では終わらない裁判になると予想しています。
上記論点については、機会があれば、また解説したいと考えています。
文責 加藤真朗