今般、東芝の有価証券報告書等虚偽記載に関し、証券取引等監視委員会が、今月中にも、東芝に対する70億円超の課徴金納付命令を出すように金融庁に勧告するとの報道がされています。
http://jp.reuters.com/article/2015/11/18/toshiba-idJPKCN0T70P720151118
課徴金の金額については、金融商品取引法により算出方法が定められており、有価証券報告書の虚偽記載については有価証券の市場価額総額の10万分の6又は600万円のいずれか高い額とされています(金商法172条の4第1項)。四半期報告書の虚偽記載については有価証券の市場価額総額の10万分の3又は300万円のいずれか高い額とされています(金商法172条の4第2項)。
また、報道によると、東芝は、平成25年3月期、平成26年3月期に合計2000億円の社債を発行していたということですから、有価証券届出書等の発行開示書類の虚偽記載も問題となります。課徴金額は、発行開示書類の虚偽記載については募集により取得させた有価証券の発行価額総額の100分の2.25(株券等の場合は100分の4.5)となります(金商法172条の2第1項)。
報道されている課徴金額は、有価証券報告書等の流通市場における開示書類、有価証券届出書等の発行市場における開示書類、それぞれの虚偽記載についての課徴金の合計額と思われます。
過去最大の金額であったIHIの有価証券報告書等虚偽記載事件における課徴金が約16億円であったのに比較すると、予想される東芝に対する課徴金額の大きさが目立ちます。東芝は既に課徴金に関する引当金として84億円を計上していたため、今般の報道はほとんど株価に影響を与えていませんが、課徴金納付命令によりさらに企業価値が損なわれることは確実でしょう。
ところで、11月7日、東芝は旧経営陣5名に対し損害賠償請求訴訟を提起いたしました(会社法423条)。東芝株主が、責任追及の訴えを提起するように請求しており(会社法847条1項)、請求の日から60日経過すると株主は株主代表訴訟を提起できることから(同条3項)、期限ぎりぎりに提訴に踏み切ったものです。
以前は会社が旧経営陣を訴えるケースは少なかったものの、新経営陣による自浄能力をアピールするため、近時ではオリンパス事件やフタバ産業事件など会社が旧経営陣を訴える事例が目立ちます。
もっとも、今回の東芝の訴訟提起については、新経営陣の思惑に反し、批判も強いようです。対象となった旧経営陣が5名に限られている点、損害賠償請求額が3億円と比較的少額である点です。
http://toyokeizai.net/articles/-/92567?page=3
会社による責任追及の対象となっていない取締役等に対しては、株主は株主代表訴訟を提起することができますし、対象となった5名に関する訴訟についても共同訴訟参加することができますので(会社法849条1項)、新経営陣が損害賠償請求の対象と請求額を絞ったことが徒となる可能性も十分あります。
最後に投資者訴訟(株主訴訟、証券訴訟)についてですが、これについても新たな報道がされています。
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20151112-OYT1T50146.html
今後、個人投資家(株主・元株主)がどの程度参加するのか、投資額の大きな機関投資家も別に損害賠償請求をするのか、注目されます。
文責 加藤真朗