加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」株券13-株券発行会社における留意事項⑦

(2)株券を交付せずに株式譲渡が行われていた場合の対処法

株券発行会社であった時期に、株券の交付が行われずに株式譲渡がなされていた場合には、難しい問題が生じます。

ア 判例理論による対処法

判例(最判昭和47年11月8日)では、会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らして株式譲渡の効力を否定するのを相当としない場合には、会社は株券発行前であることを理由としてその効力を否定できないとされています。そのため、株券の交付がなされていない理由が会社による株券発行義務の懈怠といえるような場合には、株式譲渡は有効であると解することができます。

もっとも、如何なる場合にかかる上記判例理論が適用されるかは一義的に明確ではなく、また会社法においては、非公開会社は、株主からの株券発行請求がなされるまでは株券を発行しなくても良い(会社法215条4項)とされましたので、実際に非公開会社において上記判例理論が適用される場面は限定的であると解されます。

そのため、安易に上記判例理論による対処を行うことはお勧めできません。

イ その余の対処法

会社に株式譲渡の効力を否定することが信義則違反となる例外的な事情が存在しない場合には、株券発行前の株式譲渡は、当事者の関係では有効であっても、会社との関係で効力を有さないため(会社法128条2項)無効となります。

しかし、近時の最高裁判決(最判令和6年4月19日)で、株式の譲受人は譲渡人の会社に対する株券発行請求権を代位行使できると判示されましたので、これを利用することで対処できる場面があります。

対処法の一つとしては、株券を実際に発行した上で、問題とされた譲渡人・譲受人間において再度、株券を交付して株式譲渡をやり直すことが考えられます。

他に問題となる株式譲渡から既に10年以上が経過している場合には、名義人が譲渡人に対して株主権の取得時効(民法162条)を援用することで、確定的に当該名義人が株主権を取得したものと解する方法も考えられます。

以上のような各方策を採用したとしても、現在の株主権の帰属に疑義が生じる場合には、株式譲渡というスキームから、会社分割、合併等、株式の移転を伴わない適宜のM&Aスキームに変更することも検討せざるを得ないでしょう。

なお、変更後のスキームが組織再編行為などの場合で、株主ではない者が当該組織変更行為に係る株主総会において議決権を行使していたときは、組織再編行為の無効事由となり得ますが、当該無効を主張するためには無効の訴えを提起しなければならず、かつ組織再編行為の効力発生日から6ヶ月という提訴期限が法定されています(会社法828条)ので、株式譲渡よりも法的安定性が高いといえます。

<続く>

「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」株券14-株券不発行会社への移行①

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