9月7日に、東芝が、再延期していた平成27年3月期(平成26年4月1日乃至同27年3月31日)の有価証券報告書を提出し、また、平成22年3月期(平成21年4月1日乃至同22年3月31日)乃至平成26年3月期(平成25年4月1日乃至同26年3月31日)までの有価証券報告書等に係る訂正報告書についても提出いたしました。
東芝が有価証券報告書等について訂正報告書を提出したということは、以前に提出していた有価証券報告書等に不実記載(虚偽記載)があったということを自認したことになりますので、今後法的な面で色々な影響が生じることになります。
大まかに言えば、以下のとおりとなります。
①東証による処分
②行政処分
③刑事処分
④会社法上の問題
⑤株主代表訴訟
⑥投資者訴訟(株主訴訟)
①東証による処分
有価証券報告書等の虚偽記載については、東証の上場規程上は上場廃止事由にあたります(東証上場規程601条1項11号)。しかし、東芝が上場廃止になる可能性は低いと考えています。上場廃止となるのは、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らか」な場合に限定されるからです。
そのため、上場廃止について審査している期間に指定される監理銘柄にではなく、内部管理体制等について改善の必要性が高いとして、特設注意市場銘柄に指定されることが予想されます。
②行政処分
有価証券報告書等に虚偽記載があったということで、証券取引等監視委員会による調査・課徴金納付命令勧告、それを受けての金融庁による課徴金納付命令が予想されます。
課徴金を課す際には審判手続を経なければならず、東芝は争うこともできますが、同種事例で会社側が争う例は希有ですので、東芝についても争わないことが予想されます。
課徴金金額については、金融商品取引法により算出方法が定められています。有価証券報告書の虚偽記載については有価証券の市場価額総額の10万分の6又は600万円のいずれか高い額とされています(金商法172条の4第1項)。東芝については自主的に84億円を引当金計上したようです。
③刑事処分
有価証券報告書等の虚偽記載については提出者及び法人に刑事罰が科されます(金商法197条1項1号、207条1項1号)。しかし、刑事処分を科すには故意犯である必要があるので、東芝案件で刑事処分が科される可能性は高くないと思われます。
④会社法上の問題
有価証券報告書等に虚偽記載がある場合、その虚偽記載が重要なものであれば、会社法上も計算書類が確定していないのではないかという問題があります。
東芝も9月30日に開催される臨時株主総会において、過年度の決算について計算書類などを訂正して報告するようです。
⑤株主代表訴訟
既に、大阪の『株主の権利弁護団』が東芝に対し提訴請求をしたと報道されています。
株主代表訴訟の対象としては、東芝役員、東芝を監査していた監査法人が考えられます。
また、賠償を請求する損害として考えられるのは、課徴金、過年度決算訂正に関し監査法人に支払った費用、今回の不祥事の調査のために第三者委員会に支払った費用、上場契約違約金、投資家に対し損害賠償金として支払った金員、信用毀損による損害といったものが考えられます。
⑥投資者訴訟(株主訴訟)
投資者訴訟(株主訴訟)の対象となるのは、東芝だけではなく、東芝役員や監査法人が考えられます。
早くも、個人投資家(株主・元株主)を募って集団訴訟を提起する動きがあります。投資額の大きな機関投資家の動向が気になります。
以上が今後予想される問題ですが、証券取引等監視委員会の調査の結果、新たな事実が判明した場合には、さらに大きな動きがあるかも知れません。
文責 加藤真朗