最近、東芝の不正会計問題がメディア等で広く取り上げられています。
8月31日には、平成27年3月期(平成26年4月1日乃至同27年3月31日)の有価証券報告書の提出について、9月7日まで再延長されることが発表されています。
これにより東芝の不正会計問題が今後どのように展開するのか先行きが少し不透明になったように感じられます。
これからの流れとしては、通常であれば、東芝による過年度の有価証券報告書等の訂正がなされ、金融庁による課徴金納付命令、東証の特設注意市場銘柄指定等といったようになると思われますが、予想外の展開もあり得るのかもしれません。
私自身、会計不正に関わる事件をいくつか経験してきておりますので、会計不正やコーポレートガバナンスの問題点について語りたい想いもありますが、この稿では今後予想される裁判について限定してお話しします。
今後予想される裁判としては、株主代表訴訟と投資者訴訟があります。
株主代表訴訟についてはご存じの方も多いと思います。会社の株主が当該会社の役員等に対し当該会社に代わって損害賠償請求訴訟等を提起できる制度です。会社の役員が任務を怠り、会社に対して損害を与えたとしても、他の役員は当該役員との人間関係から当該役員に対して責任を追及することを躊躇する傾向があります。そこで、会社が当該役員を訴えない場合に、会社株主が会社に代わって役員を訴えるという株主代表訴訟制度が必要になるのです。会社の損害回復とコンプライアンスという二つの機能を有しています。
株主は会社に代わって訴訟を提起するのですが、訴訟に要する弁護士費用等は自己負担です。株主は訴訟で勝ったとしても、役員からの損害賠償金は会社に支払われますから、株主にとって直接的な経済利益はありません。勝訴又は勝訴的和解で訴訟が終結したときに、弁護士費用等を会社から回収できるだけです。
株主代表訴訟には大企業を舞台とした大和銀行事件、ダスキン事件など著名な事件が多くありますが、同族会社の経営権争い(支配権争い)でも頻発しています。
東芝についても、既に株主代表訴訟を提起する動きがあると聞いています。
一方、投資者訴訟とは聞き慣れない言葉でしょうが、会社が金融商品取引法上の開示書類(有価証券報告書、四半期報告書、臨時報告書、有価証券届出書等)に虚偽記載等を行っていた場合に、当該会社の株式等有価証券を取得した投資家が、会社に対して被った損害賠償を請求するものです。典型的な事例としては、上場会社が業績不振を糊塗するために粉飾決算をし、虚偽の有価証券報告書を提出している状況において、当該会社の株式を取得した投資家が、粉飾決算が発覚したことにより株価が下落し損害を被った場合に、会社や会社役員等に対し損害賠償請求訴訟を提起するというものです。損害賠償請求が認められれば、株主代表訴訟と異なり、損害賠償金は投資家に支払われます。ライブドア事件や粉飾決算の事案ではありませんが西武鉄道事件などが著名です。
東芝についても、今後の株価の動向次第では多くの投資家から損害賠償請求訴訟が提起されるかも知れません。
文責 加藤真朗