2023年4月28日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が可決・成立し、5月12日に公布されました。
以下かかる法律について説明します。
第1 目的
現在、SNSなどを活用したネットワークビジネスが広がり、特定の場所や働き方に左右されない個人事業主(以下「フリーランス」といいます。)として働く方が増えている印象があります。
他方、フリーランスは、労働法の適用外であり、権利が十分に保護されない場合があります。さらには、個人と企業の力関係の差というのは大きく、価格等の取引条件において不利な条件をのまざるを得ない事案や、事実上受注を断りにくく、安い価格で多くの業務を行ってしまっている事案も見受けられます。
こうしたフリーランスを保護するべく、フリーランスと企業などの発注事業者との間の取引の適正化、フリーランスの就業環境の整備を図ることを目的として
(1)取引の適正化を図るため、発注事業者に対し、フリーランスに業務委託した際の取引条件の明示等を義務付け、報酬の減額や受領拒否などを禁止するとともに、
(2)就業環境の整備を図るため、発注事業者に対し、フリーランスの育児介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等を義務付けています。
第2 適用対象
フリーランス・事業者間取引適正化等法ではフリーランスのことを「特定受託事業者」と定義づけています。
「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいいます。
法人の一人社長であっても、従業員を雇用していなければ同法の適用対象になりますが、個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には適用されない点に注意が必要です。
適用の対象となるのは「業務委託」であり、従業員を雇っている個人事業主や法人(「特定委託事業者」)が、「特定受託事業者」に対し、物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託する場合に適用されます。
第3 ポイント
フリーランス・事業者間取引適正化等法における主なポイントは次のとおりです。下請法の内容に似た規制が見受けられる印象です。
1 取引条件の明示
特定委託事業者は、特定受託事業者に対し、取引条件を書面又は電磁的記録で明示する義務を負います。
2 支払期日
特定委託事業者は、特定受託事業者に対し、給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません。
3 禁止行為
特定委託事業者は、次の①~⑤までの行為を行うことは禁止され、⑥、⑦の行為により特定受託事業者の利益を不当に害してはならないとされています。
① 責めに帰すべき事由のない受領拒否
② 責めに帰すべき事由のない報酬減額
③ 責めに帰すべき事由のない返品
④ 相場から著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由のない購入強制等
⑥ 自己の為に金銭等の提供を強制させること
⑦ 責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
4 募集情報の提供
特定委託事業者が、広告等により業務の募集情報を提供するときに、虚偽の表示を行う事が禁じられ、その内容について正確かつ最新の内容に保持する義務を負います。
5 育児介護等の両立の為の配慮義務
特定受託事業者は、特定受託事業者から申出を受けた場合、申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
6 特定受託事業者に対するハラスメント対応に必要な体制整備
7 継続的業務委託の場合における中途解約の制限
一定期間継続して業務委託を委託する場合(「継続的業務委託」)、中途で解約する場合には原則として30日前までの予告の必要があります。
第4 制裁
フリーランス・事業者間取引適正化等法に違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣により助言、指導、報告・立入検査、勧告、公表、命令が行われる可能性があります。命令違反や検査拒否については罰金の制裁が規定されています。
第5 さいごに
フリーランス・事業者間取引適正化等法の施行日はまだ具体的に決定していませんが、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内とされていますので、2024年秋頃までには施行される予定です。
今後、政省令やガイドラインにおいて、禁止事項や体制整備に関して具体化されることが予定されていますので、同法の最新情報を適宜ウォッチしながら施行日までに対応を準備しておくことが必要です。
弁護士 浅井 佑太