近年の役員責任追及訴訟の動向を把握するため、平成14年以降の会社が提訴した役員責任追及訴訟(株主が共同訴訟参加したものを除く)を調査した。
この調査では、島田邦雄ほか「新商事判例便覧512号」(商事法務1618号36頁(2002年))から本村健ほか「同760号」(商事法務2306号60頁(2022年))までの「新商事判例便覧」に掲載された、平成14年以降の裁判例を調査対象とした。上級審判決があるものについては、実質的判断がされた上級審を掲載することとした。
本記事では、平成23年以前の裁判例をまとめた表を掲載する。
No. |
裁判所 |
年月日 |
結論 |
事案の概要 |
20 |
前橋地裁 |
H23.7.20 |
肯定 |
追加融資を推進・決定した銀行の代表取締役と取締役につき、回収に関する善管注意義務違反があるとして、銀行に対する損害賠償責任を認めた。 |
21 |
東京地裁 |
H22.6.30 |
肯定 |
代表権のない会社の取締役が、必要な情報を収集、分析、検討した上で代表取締役に説明、報告しなかったことにより、代表取締役の判断を誤らせ、会社に損害を与えたとして善管注意義務違反を認めた。 |
22 |
さいたま地裁 |
H22.3.26 |
肯定 |
上場会社取締役が、債務超過会社を完全子会社とした上で同社の増資の引受を行うとの意思決定をしたことにつき、善管注意義務違反を認めた。 |
23 |
東京地裁 |
H20.7.18 |
肯定 |
一人会社における株主が代表取締役に就任している場合に、当該株主兼代表取締役が任務に違背して会社に損害を加えたときは、会社に対する損害賠償義務が発生するというべきであり、一人会社であることによって善管注意義務違反による責任が生じないとはいえないとした。 |
24 |
名古屋高裁 |
H20.4.17 |
肯定 |
別会社を利用して競業取引を行った取締役に対する損害賠償請求の額につき、当該取締役及び家族への報酬合計額の5割との推定が相当とした。 |
25 |
東京地裁 |
H19.9.27 |
否定 |
資本提携・業務提携契約を締結した一方当事者が他方当事者に対し粉飾決算等の事実を開示していなかったことを理由とする債務不履行・不法行為に基づく損害賠償請求を棄却した。 |
26 |
東京高裁 |
H16.9.22 |
否定 |
融資が銀行の元取締役の善管注意義務に違反しないとして、請求を棄却した。 |
27 |
東京高裁 |
H16.6.24 |
肯定 |
取締役による従業員の引き抜きに関し会社の取締役に対する損害賠償請求を認めた。 |
28 |
東京高裁 |
H15.9.30 |
否定 |
株式会社の主宰者として経営全般を掌握している一任株主との事実上の合意の下、経理会計事務など取締役の職務に関与していなかった単なる名目上の代表取締役は、会社に対する関係において善管注意義務や監視監督義務を免除されており責任を負わないとした。 |
29 |
東京地裁 |
H14.10.31 |
肯定 |
銀行の元取締役らが行った融資が善管注意義務に違反するとして損害賠償請求を認めた。 |
30 |
東京地裁 |
H14.9.26 |
肯定 |
ゴルフ場の元経営者である代表取締役が、原告会社と自らが経営する関係会社との間でプレー権凍結契約や会員募集委託契約を締結したことが、会社の損失のもとに関係会社の利益を図った行為であるとして、善管注意義務違反・不法行為に基づく損害賠償請求を認めた。 |
31 |
東京地裁 |
H14.4.25 |
肯定 |
追加融資が銀行の取締役の善管注意義務に違反するとして、責任を認めた。 |
32 |
大阪地裁 |
H14.3.27 |
肯定 |
銀行が系列ノンバンクの融資先に融資をしたことについて代表取締役頭取に善管注意義務違反及び忠実義務違反を認めた。 |
33 |
大阪地裁 |
H14.1.31 |
肯定 |
取締役が在職中から取引先の商権の奪取を企図し退職後に実行したことが、不法行為に当たるとして損害賠償責任を認めた。 |
川岡倫子
川上修平