近年の役員責任追及訴訟の動向を把握するため、平成14年以降の株主代表訴訟事件(会社が提起した訴訟に株主が共同訴訟参加したものを含む)を調査した。
この調査では、島田邦雄ほか「新商事判例便覧512号」(商事法務1618号36頁(2002年))から本村健ほか「同760号」(商事法務2306号60頁(2022年))までの「新商事判例便覧」および資料版商事法務編集部「主要な株主代表訴訟事件一覧表」資料版商事459号146頁(2022年)に掲載された、平成14年以降の裁判例を調査対象とした。上級審判決があるものについては、実質的判断がされた上級審を掲載することとした。
本記事では、平成23年以前の裁判例をまとめた表を掲載する。
No. |
裁判所 |
年月日 |
結論 |
事案の概要 |
28 |
最高裁 |
H22.7.15 |
肯定 |
上場会社が事業再編計画の一環として子会社の完全子会社化を企図し、同社の株式を適正価格の約5倍の金額で他株主から任意の合意に基づき買い取ったことが、取締役としての善管注意義務に違反したとはいえないとした。 |
29 |
最高裁 |
H21.11.27 |
肯定 |
銀行の取締役が、取引先に対し追加融資を実行する判断を行ったことが、取締役としての善管注意義務に違反するとした。 |
30 |
東京地裁 |
H21.10.22 |
否定 |
報道機関の従業員によるインサイダー取引につき、取締役らにそのインサイダー取引を防止することを怠った任務懈怠があるとは認められないとした。 |
31 |
東京高裁 |
H20.5.21 |
肯定 |
上場会社において資金運用の一環としてデリバティブ取引が行われた結果会社に損失が発生したとして、提起された株主代表訴訟において、当該取引の担当取締役につき善管注意義務に違反した責任を肯定した。 |
32 |
東京地裁 |
H20.1.17 |
否定 |
会社による代表者に対する自己株式の取引価格が廉価ではないと判断した。 |
33 |
東京地裁 |
H19.9.27 |
否定 |
財務状態の改善を図るため主要な営業を譲渡しその譲渡代金を貸付金に切り替えて保有するなどのスキームを採用した取締役に対する善管注意義務違反・忠実義務違反を理由とする損害賠償請求を認めなかった。 |
34 |
大阪高裁 |
H19.3.15 |
否定 |
非公開会社が純資産方式により算定した場合の株価よりも高額で自己株式を取得したことにつき取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反しないとした。 |
35 |
最高裁 |
H18.4.10 |
肯定 |
⑴不当な要求に従って巨額の金員を株主に交付することを提案し、または同意した上場会社取締役の過失を否定することができないとした。 |
36 |
東京地裁 |
H17.5.12 |
否定 |
株主代表訴訟提起後に取締役に対する損害賠償請求権の譲渡が行われた場合の当該譲渡の効力につき、取締役らに対する責任追及を回避する目的でされたという推認を覆す事情が認められるとした。 |
37 |
東京地裁 |
H17.3.10 |
否定 |
⑴同一の損害賠償請求権の不行使にかかる株主代表訴訟が信義則に反して許されず不適法として却下した。 |
38 |
最高裁 |
H17.2.15 |
否定 |
株主総会決議を経ていない取締役・監査役に対する報酬支払について事後の株主総会の承認決議によって旧商法269条・279条1項の趣旨目的は達せられるから、これらの規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り、当該報酬支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになるとした。 |
39 |
大阪高裁 |
H16.4.27 |
否定 |
鉄道会社が工事負担金を受け入れて固定資産を取得した際に圧縮記帳せずに損益計算書を作成した行為が、企業会計原則その他公正なる会計慣行に違反するものではないとし、取締役の任務懈怠責任を否定した。 |
40 |
大阪地裁 |
H15.9.24 |
否定 |
⑴会社が株主代表訴訟における訴訟上の和解に利害関係人として参加し、取締役等に対して免除の意思表示をした場合に旧商法266条5項の適用はないとした。 |
41 |
東京高裁 |
H14.4.25 |
肯定 |
石油販売業者に対し、石油製品のと利引き価格の上乗せあるいはサイト差取引により資金を違法かつ不当に供与したことにつき、上場会社取締役の善管注意義務違反を認めた。 |
42 |
大阪地裁 |
H14.3.13 |
否定 |
融資先の企業に対して同社の株主を運営から退かせるための資金を融資したことが、銀行の取締役の善管注意義務違反及び忠実義務違反にはならないとした。 |
43 |
大阪地裁 |
H14.2.20 |
否定 |
証券会社が関連会社の清算に当たり支援金を供与したことが、取締役の善管注意義務違反及び忠実義務違反にはならないとした。 |
44 |
大阪地裁 |
H14.1.30 |
否定 |
上場会社の代表取締役が、同社を代表して、自己が代表取締役を務める関連会社に対して行った金融支援について、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものであったともいえないから、裁量の範囲を逸脱するものではないとし、取締役らの任務懈怠を否定した。 |
川上修平
川岡倫子