加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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近年の役員責任追及訴訟について-株主代表訴訟編-①

 近年の役員責任追及訴訟の動向を把握するため、平成14年以降の株主代表訴訟事件(会社が提起した訴訟に株主が共同訴訟参加したものを含む)を調査した。

 この調査では、島田邦雄ほか「新商事判例便覧512号」(商事法務1618号36頁(2002年))から本村健ほか「同760号」(商事法務2306号60頁(2022年))までの「新商事判例便覧」および資料版商事法務編集部「主要な株主代表訴訟事件一覧表」資料版商事459号146頁(2022年)に掲載された、平成14年以降の裁判例を調査対象とした。上級審判決があるものについては、実質的判断がされた上級審を掲載することとした。

 本記事では、平成24年以降の裁判例をまとめた表を掲載する。

No.

裁判所

年月日

結論

事案の概要

1

東京高裁

R4.6.8

肯定

⑴上場会社である親会社の取締役が個人的利益を図る目的で海外子会社等にさせた貸付け、小切手振出しおよび資金提供が善管注意義務に違反するとした。
⑵完全親会社について、完全子会社に生じた損害の金額に相当する資産の減少が生じ、これと同額の損害を被ったものと認めた。
〔ユニバーサルエンターテインメント創業者元代表取締役株主代表訴訟〕

2

東京地裁

R4.3.28

肯定

独禁法に違反した上場会社の取締役に法令遵守義務の違反を認め、課徴金納付命令の課徴金額のうち会社が自認した部分について、相当因果関係のある損害として認めた。
〔世紀東急工業事件〕

3

福岡高裁

R4.3.4

否定

取締役の労務管理に関する内部統制システム構築・運用義務違反を否定した。
〔肥後銀行過労自殺株主代表訴訟〕

4

東京高裁

R2.9.16

肯定

子会社等を通じて自己または第三者の利益を図る目的で不正行為を行った上場会社の取締役会長について、善管注意義務・忠実義務に違反するとして調査委員会費用の損害賠償責任を認めた。
なお、会社提訴に株主が共同訴訟参加した事案である。
〔ユニバーサルエンターテインメント取締役会長による子会社等の不正行為に係る損害賠償請求事件〕

5

東京地裁

R2.2.27

否定

⑴反社会的勢力を排除するための組織体制の整備に当たって、取締役の判断に一定の裁量が認められるとした上で、相当な反社会的勢力防止のための内部統制システムがグループとして構築されており、上場会社取締役らに内部統制システム構築義務違反はないとした。
⑵グループとしての内部統制システムに支障が生じていたとはせず、監視・是正を行わなかった取締役らの判断に裁量違反はないとした。
〔みずほフィナンシャルグループ元取締役らに対する株主代表訴訟〕

6

神戸地裁

R1.5.23

否定

子会社の新規事業のために貸付けを行った上場会社である親会社の取締役及び執行役に善管注意義務違反はないとした。
〔シャルレ株主代表訴訟事件〕

7

東京高裁

R1.5.16

肯定

⑴上場会社において、違法行為の疑惑を指摘していた代表取締役を損失分離スキームの発覚を防ぐために解職に導くなどした行為について、それに関与した取締役に善管注意義務違反を認め、違法配当の補填責任を認めた。
⑵有価証券報告書の虚偽記載により罰金等を納付したことについて、虚偽記載がされた当時に在任中の取締役の責任を認めた。
〔オリンパス事件〕

8

東京高裁

H30.9.26

否定

⑴上場会社において、株主総会の一任を受けた取締役会から再一任された代表取締役による取締役報酬の決定に係る善管注意義務違反の責任を否定した。
⑵代表取締役による取締役報酬の決定に係る他の取締役の代表取締役に対する監視監督義務違反の責任を否定した。
〔ユーシン役員報酬株主代表訴訟事件〕

9

東京高裁

H30.9.20

否定

上場会社において、社債の取得につき経営判断原則に基づき取締役の善管注意義務違反を否定し、有価証券報告書等の提出に係る取締役の善管注意義務違反を否定した。
〔オービック株主代表訴訟事件〕

10

東京地裁

H30.3.29

否定

不正会計に係る有価証券報告書等の虚偽記載について、上場会社代表取締役の監視義務違反及び内部統制システム構築義務違反に係る責任を認めなかった。
〔リソー教育株主代表訴訟事件〕

11

名古屋地裁岡崎支部

H29.10.27

肯定

上場会社取締役に、第1次決算訂正時における第2次決算訂正の原因につき調査不足の善管注意義務違反を認めた。
〔フタバ産業内部統制システム整備義務違反に係る取締役責任追及事件〕

12

名古屋地裁

H29.2.10

否定

⑴不採算事業から撤退しない旨の経営判断が上場会社取締役の善管注意義務違反に当たらないとした。
⑵有価証券報告書に複数の事業部門ごとの営業損益を記載しなかったとしても、法令違反に当たらないとした。
〔ツノダ株主代表訴訟事件〕

13

名古屋高裁

H28.10.27

肯定

取引先に対する不正な金融支援について上場会社の代表取締役及び担当取締役の任務懈怠を認めた。
なお、株主が追加した特別調査委員会及び責任追及委員会の報酬についても損害として認められた。
〔フタバ産業不正金融支援に係る取締役責任追及事件〕

14

東京高裁

H28.7.20

否定

ベンチャー企業及び継続性に疑義がある企業の株式取得について、上場会社役員(取締役ないし監査役)に善管注意義務違反がないとした。
〔テーオーシー株主代表訴訟事件〕

15

東京高裁

H28.7.19

否定

上場会社において、政治資金パーティー券の購入が、政治資金規正法21条1項及び取締役の善管注意義務に違反しないとした。
〔第一生命政治資金パーティー券株主代表訴訟事件〕

16

東京高裁

H28.2.18

否定

会社が株式譲渡契約に違反する株式買取拒否の結果損害賠償責任を負った場合に、取締役に対する会社への損害賠償請求を認めなかった。

17

大阪高裁

H27.10.29

肯定

MBOを実施する際、株式の公開買付価格につき買付者側の想定価格に近付けるため、根拠薄弱な利益計画による数字合わせを図り、その結果、本来不必要な出費を会社に余儀なくさせたとして、上場会社取締役に対する善管注意義務違反に基づく損賠償請求を認めた。
〔シャルレMBO株主代表訴訟事件〕

18

東京地裁

H27.4.23

否定

株主代表訴訟において発電所での不正取水行為に気づくことが著しく困難であったなどとして上場会社役員らの任務懈怠に基づく損害賠償責任を否定した。
〔JR東日本信濃川発電所株主代表訴訟事件〕

19

最高裁

H27.2.19

否定

非上場会社における第三者割当による新株発行の発行価額が、旧商法280条の2第2項に定める「特に有利なる発行価額」に当たらないとして、取締役らの損害賠償責任を否定した。
〔アートネイチャー株主代表訴訟事件〕

20

東京地裁

H26.9.25

肯定

上場会社が、政治資金規正法を潜脱して政治献金をするために設立された政治団体名義で行った政治献金等は同法に反し、同献金等に関与した取締役には原則善管注意義務違反が認められるとし、一部の取締役に対する請求を認めた。
〔西松建設株主代表訴訟事件〕

21

東京高裁

H26.4.24

否定

不動産流動化に係る会計処理、課徴金の納付等に関して、上場会社役員の任務懈怠を認めなかった。
〔ビックカメラ株主代表訴訟事件〕

22

東京地裁

H26.3.27

肯定

会社法362条4項1号所定の「重要な財産の譲渡及び譲受け」に該当する社債引受けを、取締役会決議を経ないで、業務執行として決定・実行して会社に損害を与えたとして、上場会社取締役の損害賠償責任を認めた。
〔ユニマットそよ風株主代表訴訟事件〕

23

最高裁

H26.1.30

肯定

近く破綻が明らかな子会社に対し、貸金の回収は当初から望めなかったにもかかわらず貸付けを実行するなどしたのであるから、その経営判断につき取締役の忠実義務ないし善管注意義務違反を認めた。
〔福岡魚市場株主代表訴訟事件〕

24

大阪高裁

H25.12.26

否定

会社の行った会計処理に関し、公正なる会計慣行に適合しない違法性は認められず、したがって、違法配当の事実も認められないと判断した。
〔三洋電機株主代表訴訟事件〕

25

大阪地裁

H24.6.29

肯定

上場会社が、土壌環境基準値以上の有害物質を含む土壌埋戻材を販売し、不法投棄された同材の回収を余儀なくされたことにつき、同材の生産・販売を管掌した取締役のほか、土壌埋戻材工場の工場長であった取締役について、任務懈怠責任を認めた。
〔石原産業廃棄物不法投棄取締役責任追及事件〕

26

名古屋高裁

H24.6.22

肯定

上場会社による実態のない会社に対する業務委託費の支払について、取締役の善管注意義務違反が認められた。
〔ツノダ株主代表訴訟事件〕

27

福岡高裁

H24.4.10

肯定

準委任契約の終了に際して、会社が支払った補償金が相当な範囲を大幅に上回っており、会社取締役らの会社に対する損害賠償責任を認めた。
〔株式会社小倉カンツリー倶楽部事件〕

川上修平

川岡倫子

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