加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例-不正な金融支援につき監視義務違反があったとして、取締役に対し、任務懈怠責任を認め、回収不能になった融資金相当額及び特別調査委員会等に支払われた報酬相当額の損害賠償義務を認めた事例-

不正な金融支援につき監視義務違反があったとして、取締役に対し、任務懈怠責任を認め、回収不能になった融資金相当額及び特別調査委員会等に支払われた報酬相当額の損害賠償義務を認めた事例

(フタバ産業損害賠償請求事件)

名古屋高判平成28年10月27日 金判1526号53頁

原審:名古屋地裁岡崎支判平成28年3月25日 金判1526号18頁

第1 判決の概要

本件は、X社の経理部の役員ないし従業員が適正な手続を経ずに取引先に対する不正な金融支援を行ったのは、X社の代表取締役であったY1及び取締役であったY2の監視義務違反等によるものであるとして、X社及びX社の株主として会社法849条1項による訴訟参加をしたZが、Yらに対し、会社法423条1項に基づき、回収不能になった融資金相当額の賠償、及び不正な金融支援が行われたこと等を調査・検討するためにX社が設置した特別調査委員会及び責任追及委員会(本件委員会)に支払われた各報酬相当額の損害賠償を求めたものである。

本件では、Yらの任務懈怠の有無並びに損害の発生及びその数額等が争点となった。

 結論として、本判決は、Yらの任務懈怠責任を認め、不正な金融支援による損害及び本件委員会の報酬相当額の損害賠償を認めた。

(参照条文)

会社法423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

1 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(・・・)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。



第2 事案の概要

Y1は、X社の元代表取締役であり、Y2は、X社の元取締役であり、役員ないし従業員による不正融資の対象会社となったA社の取締役の地位を兼務していた。Bは、X社の経理部の担当取締役で、同部の最高責任者であり、Cは、X社の経理部の参与の地位にあり、A社の監査役を兼務していた。

Cは、Bの了解のもと、X社が出資する取引先であるA社の求めに応じて、X社の各種規程に違反し、取締役会の承認を経ることなく、X社からA社に対して1億5000万円を送金したが(本件無断融資)、その発覚を受けて、Bは、取締役会において謝罪するとともに、始末書を提出した。

しかし、その後A社が銀行から7億円の融資を受けるに当たり、Cが、取締役会の承認を経ずに、X社をしてこれを保証した(本件無断保証)。

本件無断保証の発覚後も、B及びCは、A社に対する金融支援を継続し、その内訳は、①A社の借入先に対するX社の額面3億円の約束手形の振出と同手形の回収のために、X社から別会社を経由した立替金等名下での合計14億9700万円の送金(送金①)、②X社が出資しY2が代表を務める香港企業からの7億円の融資とその融資の未返済分の回収のため、同香港企業のX社に対する取引代金に回収分を上乗せして請求をさせ、これによりX社が支払った187万4999.40米ドル(送金②)である。

そこで、X社及びX社の株主であるZは、B及びCが適正な手続を経ずにA社に対する不正な金融支援を行ったのは、Yらの監視義務違反等によるものであるとして、会社法423条1項に基づき、回収不能になった融資金相当額の賠償並びに不正な金融支援に関して設置された本件委員会に対する報酬の損害賠償を求めたところ、原審は、一部これを認め、一部棄却したため、ZとY1がそれぞれ控訴した。

第3 判旨

1 任務懈怠責任の有無について

本判決は、まず取締役が会社の業務執行一般について監視し、他の取締役や使用人による違法な行為を認識し又は認識し得た場合、これらを取締役会に上程するなどして、違法行為を防止し、損害の拡大を防止すべき義務を負っていると述べた。また、本判決は、代表取締役に関して、自ら業務執行を行う場合はもとより、他の取締役や使用人の補助を得て業務執行に当たっている場合でも、その業務執行においては、他の取締役や使用人の行為に職務違反がないかどうかを監督し、不当な職務執行を制止し又は未然に防止する策を講ずるなど会社の利益を図るべき職責を負うと述べた。

そのうえで、Y1及びY2については、本件無断保証が発覚してからも、再発防止の措置や事実関係の調査、リスク状況の確認等を行っていないこと、特にY2については、A社の非常勤取締役でありA社の内部事情を知りうる立場であるということについても併せ鑑み、Yらの任務懈怠を認めた。


2 損害の発生及びその数額

まず、本判決は、Yらの任務懈怠がなければ、上記送金①及び送金②は発生しなかったのであるから、この支出をもって損害の発生があったと判示した。

そのうえで、本判決は、本件委員会の報酬が事案の真相や関係者の責任の所在を果たすために、通常生ずる費用であるとして、当該報酬は、Yらの任務懈怠と相当因果関係のある損害と認める旨判示した。


第4 実務上のポイント

1 本判決の意義

本判決は、X社の経理担当取締役であったB及び経理担当参与であったCによって行われた本件無断融資、本件無断保証及び本件無断保証が発覚した後のA社に対する不正な金融支援につき、X社の代表取締役につき、個々の取締役や使用人に対して直接的な監督義務を負っている旨判断した点において、重要な意義を有する。


2 任務懈怠責任

(1)監視監督義務の有無

取締役会設置会社においては、各取締役は、取締役会の審議ないし決議を通じて代表取締役、支配人らの業務の執行を監視すべき権利義務を有すると解されており(最判昭和37年8月23日集民62号273頁)、その監視義務は、取締役会に上程された事項のみならず、代表取締役の業務執行一般に及び、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求めて尽くさなければならないとされ、これを怠った時は、任務懈怠となる[1]

最高裁は、代表取締役が他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりにした事案において、「代表取締役は、対外的に会社を代表し、体内的に業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関であるから、善良な管理者の注意をもって会社のため忠実にその職務を執行し、ひろく会社業務の全般にわたつて意を用いるべき義務を負うものであることはいうまでもない。」と述べ(最判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁)、代表取締役もまた当然監視監督義務を負う旨明らかにしている。本判決も、代表取締役は、業務の全般にわたり他の取締役の職務行為や使用人の業務補助行為に対する広範な監視義務を負うと解している。


(2)本件における監視監督義務違反の検討

本判決では、Yらにおいて監視監督義務違反があったとして任務懈怠責任を認めている。

かかる認定判断では、当時のY1の認識に照らして、具体的にいかなる措置を講ずるべきであったかについて子細に検討されている。

具体的には、各種規程に違反して行われた本件無断融資が発覚した際に、これを認識したY1としては、経理部門の上層部とA社との関係性について強い疑問を抱くべき状況にあったこと、こうした行為を安易に追認したり放置した場合にはさらに損害が拡大する恐れがあったことなどを指摘し、これらは、通常の代表取締役であれば認識し、あるいは容易に認識し得たことというべきであると判示している。

そのうえで、Y1においては、本件無断保証が発覚した時点において、B及びCを直ちにA社の担当から外すなどの再発防止の措置を講ずるとともに、事実関係の調査とリスク状況の確認を行い、緊急対応が必要な場合、早急に損害の回避又は軽減の措置を講ずるべき義務があった旨指摘して、このような義務を怠ったY1に任務懈怠を認めた。

Y2についても、本件無断保証が判明した際に、本件無断保証の経緯や原因のほか、本件無断保証によるX社のリスクが具体的にどのようなものかについて、A社の非常勤取締役でA社の内情を知りうる立場から、A社の現在の経営状態や資金繰りの状況などの実情についての調査に取り掛かり、判明次第、報告すべき義務があったということができるとして、これを怠ったY2に任務懈怠を認めた。

取締役の地位に着目して、違法な行為が行われた業務に関する情報に接しやすいことを理由に、監視監督義務違反と問われる可能性が高まるという見解が指摘されているところであり[2]、本件におけるY2のA社取締役であるという地位もまた、同様の見解からの指摘であると考えられる。

本判決の子細な検討は、今後代表取締役又は取締役の監視義務違反が争点となる同種事案の検討において参考となると思われる。


3 損害について

原審では、任務懈怠と本件委員会の報酬の発生との間に相当因果関係がないとして、この点に関するX社の請求を棄却しているところ、本判決は、本件無断保証の発覚時点と実際に上記委員会が設置された時点では設置の必要性に関して格段の相違があることやX社が資本金118億円を超える大規模会社であり、経営トップが隠ぺい工作に加担していたという事案の性質等に照らして、外部の有識者を交えた組織に調査を委ねたのは相当であるとして、これらの委員会の報酬は、通常生ずる損害であると判断し、任務懈怠との相当因果関係を肯定した。

この点、有価証券報告書の虚偽記載を行った代表取締役等において任務懈怠責任が問われた仙台地判平成27年1月14日ウエストロー2015WLJPCA01146010、東京地判平成28年3月28日判時2327号86頁は、金融商品取引法に基づいて支払った課徴金相当額を損害と認め、特に後者は、本判決と同様に第三者委員会の報酬についても損害と認めている。

今後、大規模会社を相手とする株主代表訴訟における損害を検討するに当たっては、本判決や上記2つの裁判例の認定判断は参考となると考えられる。

浅井佑太



[1] 東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社訴訟Ⅰ(第3版)』329頁(判例タイムズ社・2011)

[2] 前掲注1)東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社訴訟Ⅰ(第3版』・252頁

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