株主に対する事前の招集通知を発しなかったことは株主総会決議不存在原因に当たり、非公開会社において会社法所定の株主総会による特別決議を欠くことは新株発行無効原因に当たるとして、新株発行を無効とした事例
東京地判令和元年5月20日 金判1571号47頁(確定)
第1 判決の概要
本件は、Y社の株主であるXが、Y社に対し、会社法828条1項2号に基づき、被告が平成29年6月5日になした普通株式18万株の新株発行(本件新株発行)を無効とすることを求める事案である。
本判決は、本件新株発行に係る決議がされた株主総会において、株主に対する事前の招集通知が発せられていない点の瑕疵の重大性に鑑みれば、株主総会は法的に不存在と評価されるべきであり、本件新株発行は、非公開会社がした会社法所定の株主総会による特別決議を欠いた新株発行であり、無効である旨述べて、Xの請求を認容した。
(参照条文) 会社法299条(株主総会の招集の通知) 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の2週間(前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、1週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。 同法828条(会社の組織に関する行為の無効の訴え) 1 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。 二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から6箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から1年以内) |
第2 事案の概要
Y社は、取締役会設置会社であり、株式の譲渡による取得について、取締役会の承認を要する旨定款に定めている会社である。
平成28年4月2日時点におけるY社の株主及びその保有する株式数は、Aが8万1548株、Bが7万9546株、Cが8万1546株、D社(代表取締役はB)が5万7360株である。
Y社において、平成28年4月2日付けの「臨時株主総会」と題する書面が作成されているところ、これには1株100円で「20000」株の新株を発行する旨記載されている。もっとも、ここには、株主としてAないしD社の記名はあるが、これらの者が賛成の意を示したことについて記載がない。
Y社において、平成28年7月18日付けの「株主総会」と題する書面が作成されているところ、ここには、Aの長男であるEに対し、1株100円で18000株増資することを決定する旨記載がある。なお、これについては、Cの記名押印はない。また、Y社は、かかる総会の開催に際し、株主に対し招集通知を発しなかった。
Cは、平成28年12月27日に死亡し、Xは、C所有の株式を全部相続した。
Y社において、平成29年5月16日付け臨時株主総会(平成29年総会)議事録が作成されているところ、ここには、募集株式の数として普通株式18万株、払込金額として1株100円、払込期日として平成29年6月5日、増加する資本金額として1800万円として、募集株式を発行する決議が可決された旨記載がある。なお、Y社は、かかる総会の開催に際し、株主に招集通知を発していないが、Y社によれば、A、B及びXに対して、口頭で開催を通知しており、Xも口頭で開催の通告を受けたこと自体は認めている。
Eは、払込期日に1800万円を全額払い込んだ。
これを受けて、Xは、本件新株発行の無効を求めて提訴した。
第3 判旨
本判決は、要旨以下のとおり述べて、本件新株発行が無効であると判断した。
「本件新株発行に係る決議がされた平成29年総会については、Y社は株主に対する事前の招集通知を発していないところ、その招集手続きの瑕疵の重大性に鑑みれば、平成29年株主総会決議は法的に不存在と評価されるというべきである。」
「本件新株発行は、非公開会社がした会社法所定の株主総会による特別決議を欠いた新株発行であるところ、当該特別決議を欠く瑕疵は本件新株発行の無効原因に当たると解することが相当である。」
第4 実務上のポイント
1 本判決の意義
本判決は、新株発行に係る事前の招集通知の瑕疵から、株主総会決議の法的不存在を導き、さらには株主総会決議の法的不存在を理由として、新株発行の無効を認めた裁判例として重要な意義を有する。
2 決議の不存在事由
株主総会の不存在とは、決議が事実としてないのに、決議があったかのように議事録が作成され、登記がなされたような場合をいう(最判昭和38年8月8日民集17巻6号823頁参照)。
決議不存在は、決議が物理的に存在しない場合のほか、①一部の株主が勝手に会合して決議した場合(東京地判昭和30年7月8日判タ50号63頁)、②取締役会設置会社において平取締役が取締役会の決議に基づかないで株主総会を招集した場合(最判昭和45年8月20日集民100号373頁)、③招集通知漏れが著しい場合(最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁)等、何らの決議はあってもそれが法的に総会決議と評価できない場合もそれに該当するとされる[1]。
本判決は、平成29年株主総会に際して、株主に対して招集通知が行われていなかったことを指摘して、同株主総会が不存在であったと結論付ける。これは、Xらを含む全株主に対する招集通知が欠けていたことために招集通知漏れが著しいものであると評価した結果であると解される。
もっとも、本件では、Y社は、平成29年株主総会の開催の際に、A、B及びXに対し、口頭で株主総会の開催を告げており、Xも、口頭で開催の通告を受けていることを認めている。
この点に関して、口頭の開催通知が直前になされていたという点で、これまでの裁判例の事案とは異なるように思われるとの指摘もあり[2]、招集通知漏れが決議取消事由に該当するにとどまるか、それとも招集通知漏れが著しいとしてやはり不存在事由に該当するかについては今後の検討が必要と思われる。
3 株主総会特別決議を欠く新株発行について
上記のとおり、招集通知漏れの結果、株主総会決議が不存在とされた場合、本件では、株主総会による特別決議を欠いたまま本件新株発行が行われたことになる。
この点、最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁は、発行済株式の全部について譲渡による取得につき取締役会の承認を要する旨定款で定められている会社において、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法により行われた募集株式の発行がされた場合、その発行手続きには重大な法令違反があり、この瑕疵は、株式発行の無効原因となるとしており、本判決も、上記最高裁判例の判断に倣い、本件新株発行が無効であると判断している。
なお、自己株式処分に係る議案があることが株主総会招集通知に記載がなかったことなどから、自己株式処分に係る株主総会決議について、成立に必要な議決権数の賛成があったものと認められないとして、このような瑕疵ある決議に基づいて行われた自己株式処分が無効であると判示した裁判例(大阪地判平成31年1月16日ウエストロー2019WLJPCA01166012)もあり、今後同種の事例検討においては当該裁判例もまた前掲最判平成24年4月24日や本判決と同様に参考となる。
以上に対し、新株発行株主総会決議不存在を認めたにもかかわらず、第三者割当による新株発行がなお有効であると判断された裁判例がある(大阪高判平成25年4月12日金判1454号47頁)。
かかる裁判例は、株主全員がいったんは第三者による出資を了承し、出資金が現実に入金されたにもかかわらず、株主らがその後言を左右にして前言を覆すという信義則に悖る言動を行っていることをとらえて、株主全員が新株発行時点において、持株比率の減少を了承していたと判断された特殊な例である。