特例有限会社における特別決議の定足数や決議要件には、議決権行使を制限された株主も算入されることから、特別決議の要件を満たさないとして、株主総会決議の取消しを認めた事例
広島高裁松江支判平成30年3月14日 金判1542号22頁(上告、上告受理申立て)
原審:鳥取地判平成29年9月15日 金法2080号83頁
第1 判決の概要
本件は、Xが、特例有限会社であるY社の株主として(第1事件)、更にはY社の取締役として(第2事件)、Y社の株主総会(本件総会)におけるAの相続人らに対し、同人らが有するY社の株式をY社に売り渡すことを請求する旨の決議(本件決議)は、特別決議の要件を満たしていないと主張して、会社法831条1項1号に基づき、その取消しを求めた事案である。
本件の争点は、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(整備法)14条3項が規定する「総株主」「当該株主」に当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれるかである。
本判決は、整備法14条3項にいう「総株主」「当該株主」には、当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれ、本件決議は特別決議の成立要件を満たしていないとして、本件決議の取消しを認めた。
(参照条文) 会社法174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め) 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。 会社法175条1項(売渡しの請求の決定) 1 株式会社は、前条の規定による定款の定めがある場合において、次条第1項の規定による請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 次条第1項の規定による請求をする株式の数(・・・) 二 前号の株式を有する者の氏名又は名称 2 前項第2号の者は、同項の株主総会において議決権を行使することができない。・・・ 会社法176条(売渡しの請求) 1 株式会社は、前条第1項各号に掲げる事項を定めたときは、同項2号の者に対し、同項第1号の株式を当該会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、・・・ 会社法309条(株主総会の決議) 2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。・・・ 三 第171条第1項及び第175条第1項の株主総会 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律14条(株主総会に関する特則) 3 特例有限会社の株主総会の決議については、会社法第309条第2項中「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二」とあるのは、「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の四分の三」とする。
|
第2 事案の概要
Xは、Y社の株主であり、第1事件に係る訴えの提起後には、Y社の取締役に就任している。また、Xは、Y社の株主であったAの相続人の一人でもある(なお、Xは、Aの相続を原因として準共有となっているY社株式のほかに、単独でもY社株式を有している。)。
Y社は、自動車登録番号標及び車輌番号標の製作、販売等を目的とする特例有限会社である。
Y社の定款には、Y社が相続その他一般承継によりY社の株式を取得した者に対し、当該株式をY社に売り渡すことを請求することができると定められていた。
平成28年12月に開催された本件総会では、Aの相続人らに対し同人らが有するY社の株式をY社に売り渡すことを請求する旨の本件決議がなされた。なお、本件決議において、売渡請求の対象者となるAの相続人らは、議決権を有しないところ(会175条1項)、本件決議は、整備法14条3項の「総株主」にAの相続人を含めるかどうかに関わりなく、Y社の総株主9名のうち5名が出席していたことから「総株主の半数以上」という特別決議の成立要件(頭数要件)を満たしていた。しかしながら、総株主の議決権の数6000個のうち、A相続人の準共有となっている株式の議決権数は1800個であったところ、本件決議に賛成した議決権数は2520個であったことから、「当該株主」にAの相続人が含まれるとした場合には、「当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」という特別決議の成立要件を満たしていなかった。
Xは、Y社に対し、第1事件に係る訴えを提起したところ、その後にY社の取締役に就任し、今度はY社の取締役として、第2事件に係る訴えを提起した。また、第1事件及び第2事件に関しては、Y社の元取締役のZがY社に補助参加した。
原審は、整備法14条3項が規定する「総株主」「当該株主」に当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれ、本件決議は特別決議の要件を満たさないとして、その取消しを認めた。
Y社の補助参加人Zは、これを不服として控訴した。
第3 判旨
本判決は、「整備法14条3項の規定する「当該株主」は同項にいう「総株主」と同義であり、「総株主」には当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれると解され、本件決議は「当該株主」の議決権の4分の3以上という特別決議の成立要件を満たしていない」と判示している。
その理由としては、以下のような判示を行っている。
1 会社法の規定上、会社法297条3項や同法303条2項のように、総株主の議決権に、当該議案との関係で議決権を行使することができない株主が有する議決権を参入しない場合には、その旨を明文で定めている。
2 特例有限会社ではない株式会社における株式売渡し請求をするための特別決議の決議要件について、会社法309条2項柱書は、「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数・・・を有する株主が出席し」と規定し、当該決議との関係で議決権を行使できない株主の議決権を参入しないことを明らかにしている。しかしながら、同項柱書の前記文言について、整備法14条3項は、これを「総株主の半数以上・・・であって、当該株主の議決権の4分の3」と読み替える旨規定している。
3 旧有限会社法48条2項は、有限会社における持分の売渡し請求をするための特別決議の決議要件について、「議決権ヲ行使スルコトヲ得サル議決権」は総社員の議決権の数に参入しない旨規定していたが、整備法は、これを引き継いでいない。
第4 実務上のポイント
1 整備法14条3項の解釈について
本判決は、整備法14条3項の規定する「当該株主」は同項にいう「総株主」と同義であり、「総株主」には当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれる旨を判示している。このような解釈については、立法担当者の解説[1]にも合致しているため、同種事案において、今後の裁判実務でも同様の判断がなされる可能性は高いように思われる。
2 原告適格の判断時期
なお、「第3 判旨」では触れていないが、本判決は、Xが株主として提起した第1事件と代表取締役として提起した第2事件とは、当事者及び訴訟物が同一であるとして、第2事件に係る訴えは二重起訴に該当し、不適法である旨も判示している。
かかる判断は、株主総会決議取消訴訟の原告適格の有無は、弁論終結時を基準として判断すべきことを前提に、訴え提起当初は、原告適格を有していなかったとしても、弁論終結時までに原告適格を有するに至れば、訴えは適法となるとの見解に基づくものと思われる[2]。
裁判実務上、株主総会決議取消訴訟において原告適格の有無が争点となった場合、本判決と同様の見解に立つ判断がなされるか否かについての予測は難しいが、本判決と同様の見解に立って判断がなされる可能性があることは念頭に置くべきである。
弁護士 太井 徹