取締役会設置会社において、委任状提出株主を含め全員出席総会と見うる場合でも、株主が手続に瑕疵があることを認識しつつ総会開催に同意していたといえない場合は、瑕疵が治癒されたとはいえず、裁量棄却もできないとされた事例
大阪地判平成30年9月25日 金判1553号59頁
第1 判決の概要
本件は、株主総会の招集を決定する取締役会に定足数を欠く瑕疵があった事案において、実際に開催された株主総会では委任状を提出した株主を含め全員の出席がある場合、招集手続の瑕疵が治癒されるか、治癒されないとしても裁量棄却されるべきか等が争いとなった事案である。
本判決は、具体的事情から、全員出席総会であるとして招集手続の瑕疵が治癒される場合には当たらず、裁量棄却もできないと判示した。
(参照条文) 第831条(株主総会等の決議の取消しの訴え) 1 次の各号に掲げる場合には、株主等・・・は、株主総会等の決議の日から3箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。・・・ 一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。 2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。 |
第2 事案の概要
Y社は、取締役会設置会社であり、定款に取締役会の定足数や決議要件の定めはなかった。
当時、Y社の発行済株式は200株であり、Y社代表者Aが120株、Xが30株、B及びCが各25株を有していた。
当時、Y社の取締役は、代表取締役A、取締役Dの2名であった。Xの義母も取締役として登記されていたものの、以前に死亡していた。
Aは、 A及び監査役Eの出席によりY社取締役会を開催し、取締役選任決議を議案として、Y社定時株主総会(本件株主総会)を開催する決議を行った(本件取締役会決議)。
なお、Xは、本件株主総会に先立ち、8週間以上前に会社法303条に基づきX及びFをY社取締役に選任する旨の議案を提案しており、同議案についても本件株主総会に付議されていた。
本件株主総会においては、A及びXが出席し、B及びCは、議決権行使をXに委任する旨の委任状をY社に提出していた。本件株主総会にて、Xは反対したが、Aの賛成により、A及びEを取締役に選任する決議が賛成多数で可決された。
本件株主総会の2週間後、Xは代理人を通じて本件株主総会の招集のための取締役会が適法に開催されたか否かを確認するため、Y社に対し取締役会議事録の開示請求を行った。
このような事案において、Xが会社法831条1項1号に基づき、招集手続の法令違反を理由に、本件株主総会決議の取消しを請求し提起したのが本訴訟である。
本訴訟では、①本件株主総会の招集に際する本件取締役会決議の瑕疵、②当該瑕疵が全員出席総会であること等を理由に治癒されたか否か、③裁量棄却の可否が争点となった。
第3 判旨
1 争点①(招集手続の瑕疵)について
本判決は、本件取締役会は、当時のY社取締役2名のうち、代表者であるA1名のみの出席によるもので、取締役会の法定の最低員数3名の過半数2名に満たないため、定足数違反で無効とした。
そして、本件株主総会の招集手続は、Aが取締役会決議に基づかずした瑕疵があり、法令違反と判示した。
2 争点②(全員出席総会として瑕疵が治癒されるか)について
本件株主総会の決議は、全員出席総会において株主全員が議案につき検討し熟考する機会を与えられ、その範囲内で決議されたものであるため、株主全員がその開催に同意して出席したと評価できるとのY社の主張に対しては、以下のとおり否定した。
XがAらを取締役に選任する議案に反対していたこと、Xが本件株主総会後にY社に取締役会議事録の開示請求をしていたことからすれば、Xが本件取締役会決議に瑕疵があることを認識しつつ本件株主総会の開催に同意していたとはいえず、B及びCも、Y社に委任状を提出した際、上記瑕疵を認識しつつ本件株主総会の開催に同意していたとは認められないことから、本件株主総会が全員出席総会として招集手続の瑕疵が治癒されるとはいえない。
3 争点③(裁量棄却の可否)について
本件取締役会の定足数不足という瑕疵の内容、取締役Dが出席していれば目的事項が本件株主総会と異なっていた可能性も否定できないことからすれば、招集手続の瑕疵は重大でないとはいえず、決議に影響を及ぼさないともいえない。
第4 実務上のポイント
1 取締役会の定足数不足
取締役会設置会社において、代表取締役が株主総会の招集を決定するには、目的事項につき取締役会の決議により決定する必要がある(会社法298条4項、同1項各号)。また、有効な取締役会決議に基づかず代表取締役が株主総会の招集を行った場合には、招集手続の法令違反となる(最判昭和46年3月18日民集25巻2号183頁)。
そして、取締役会の定足数算定の基礎となる員数は、現存する取締役の員数を基準とするが(最判昭和41年8月26日民集20巻6号1289頁)、法令等に定める最低限の員数を下回る場合は、その最低限の員数が基準となる[1]。
本件では、会社法331条5項が定める最低員数3名が定足数算定の基礎となるため、その過半数2名の出席がない本件取締役会は、定足数違反により無効となる。
2 全員出席総会による瑕疵の治癒
判例によれば、招集手続に瑕疵がある場合でも、いわゆる全員出席総会としてその瑕疵が治癒される場合がある(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁)。ここでいう全員出席総会として決議が有効となる場合とは、株主全員がその開催に同意して出席した総会であり、委任状に基づく代理人出席により全員出席となる場合は、株主が会議の目的事項を了知して委任状を作成し、かつ、決議が目的事項の範囲内のものである場合とされている(上記最判)。
さらに、株主全員がその開催に同意して出席したといえるには、単に全株主が出席したのみならず、招集手続の遵守を明示的又は黙示的に放棄することが必要と解されている[2]。例えば、総会の場において全会一致で決議がなされた場合などは、これに該当すると思われるが、賛否に争いがある場合等は、直ちにこれを肯定することはできず、招集手続の遵守を全株主が放棄したといえるかにつき、具体的な事情を主張立証する必要があると思われる。
本件では、委任状提出株主を含めると、全株主が本件株主総会に出席していたものの、Xの議案への反対、その後の取締役会議事録開示請求等の事実から、Xは本件取締役会決議の瑕疵を許容しておらず、B及びCもまた同様であったことから、本判決は瑕疵の治癒を否定している。
全員出席総会による瑕疵の治癒については、単なる全株主の出席のみならず、本件のように具体的事実に基づく判断を要する場合もあることから、株主側としては、手続瑕疵を認めていないことを総会の事前若しくは事後に書面等で明らかにする、又は総会の議場で発言を録音する等の措置により、証拠化するなどが考えられる。
他方、会社側としては、反対に全株主が招集手続の瑕疵を問題にしない意思であることを書面、録音等により証拠化することが考えられる。もっとも、既に紛争が顕在化し、又はそれに近い状況においてはそれが困難なこともあろうため、第一は適法な招集手続を実施することである。
3 裁量棄却
本判決は、招集手続における取締役会決議の欠缺は重大でないとはいえず、決議に影響を及ぼさないともいえないとして裁量棄却を否定しており、前掲最判昭和46年3月18日やその後の裁判例に照らして一般的な判断と考えられる。招集手続の法令違反が明白な場合には裁量棄却は認められにくい傾向にあることから、会社側としてはやはり手続の適正に十分留意する必要がある。
弁護士 佐野 千誉