第1 新設分割の手続きの流れ
新設分割の手続きは、吸収分割の手続き(M&Aにおける会社分割② ― 吸収分割の手続①)と概ね同じです。金融商品取引法上の届出等で一部異なるものがありますが本稿では割愛します。新設分割は新会社の設立を伴うため、手続きは基本的に分割会社で行います。
本稿では、新設分割の手続きのうち、新設分割計画、分割会社における新設分割計画の株主総会による承認について説明します。
第2 新設分割計画
1 新設分割計画において定めるべき事項
新設分割をするときは、分割会社は、新設分割計画を作成しなければなりません(会社法762条1項)。共同新設分割の場合は、共同して新設分割画を作成する必要があります(同条2項)。新設分割計画においては、次の事項を定める必要があります(763条1項)。
➀ 設立会社の目的、商号本店所在地および発行可能株式総数
➁ 設立会社の定款事項
ⅰ ➀➁については、実務上は、設立会社の定款を新設分割計画の一部として添付します。
ⅱ 設立会社の資本金及び準備金については、資本金等の確定額を記載する必要はなく、会社計算規則49条、50条の規定に従う旨記載することで足ります(共同新設分割の場合は会社計算規則51条)。
➂ 設立会社の設立時取締役の氏名
➃ 設立会社の設立時会計参与・監査役・会計監査人の氏名等
➄ 設立会社が分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項
ⅰ 分割会社が保有する自己株式を設立会社に承継させることは、通常、子会社に親会社株式を取得させることになるので許されません。
ⅱ ➄の債務に関する定めは、免責的に設立会社に承継されるのか、重畳的に承継されるのか、分割会社の債務として残るのか明示する必要があります。
➅ 設立会社が分割会社に対して交付する設立会社株式の数(種類株式発行会社にあっては株式の種類および種類毎の数)またはその数の算定方法並びに設立会社の資本金および準備金の額に関する事項
(新設分割において設立会社の株式が全く交付されないことはあり得ませんが、共同新設分割において、一方の分割会社に対し、株式を交付しない取扱いも可能です。)
➆ 2以上の会社が共同して新設分割するときは、分割会社に対する⑥の株式の割当てに関する事項
➇ 設立会社が分割会社に対して設立会社の社債等を交付するときは、次に掲げる事項
イ 設立会社の社債であるときは、当該社債の種類および種類毎の各社債の金額の合計額又はその算定方法
ロ 設立会社の新株予約権であるときは、当該新株予約権の内容および数またはその算定方法
ハ 設立会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項
➈ ➇の場合に、2以上の会社が共同して新設分割するときは、分割会社に対する社債等の割当てに関する事項
➉ 設立会社が分割会社の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる設立会社の新株予約権を交付するときは次に掲げる事項
イ 設立会社の新株予約権の交付を受ける分割会社の新株予約権者の有する新株予約権(新設分割計画新株予約権)の内容
ロ 新設分割計画新株予約権の新株予約権者に交付される設立会社の新株予約権の内容および数またはその算定方法
ハ 新設分割計画新株予約権の新株予約権者に交付される設立会社の新株予約権が新株予約権付社債に付されたものであるときは、設立会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類および種類毎の各社債の金額の合計額又はその算定方法
⑪ ⑩の場合、新設分割計画新株予約権の新株予約権者に対する設立会社の新株予約権の割当てに関する事項
⑫ 分割会社が設立会社成立の日に次に掲げる行為をするときは、その旨
イ 全部取得条項付種類株式の取得(取得対価は設立会社株式 )
ロ 剰余金の配当(配当財産は設立会社株式)
ⅰ 人的分割(分割型分割)を実施する際の定めです。この際、剰余金の配当等に関する財源規制の適用はありません(792条)。剰余金の配当等により分割会社に欠損が生じた場合には、それを放置することも、資本金等を減少させてそれを填補することもできます。
ⅱ 人的分割の場合、分割会社において、別途剰余金の配当等の手続きを行う必要があることに注意が必要です。
設立会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数その他定款事項・設立時役員・資本金および準備金に関する事項も記載する必要があります。
2 分割条件
共同新設分割の場合、分割条件は、当事会社の株主にとって重大な関心事です。分割条件の相当性については、備置書面等における開示が義務付けられています。詳細は後述します。
もっとも、分割条件の不公正それ自体は新設分割の無効事由とはならないと解されています。ただし、特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な分割条件が決定されたときは、新設分割承認決議の取消事由となると解されています。設立会社成立後は原則として新設分割の無効事由となります。
第3 分割会社における新設分割計画の株主総会による承認
1 株主総会特別決議
分割会社は、新設分割計画について、新設分割の登記前に、株主総会の承認を受ける必要があります(804条1項)。承認には特別決議を要します(309条2項12号)。
当該株主総会の招集通知を書面(電磁的方法)により行う場合、招集通知に議案の概要を記載等しなければなりません(299条4項、298条1項5号、規則63条7号ヲ)。
また、書面(電磁的方法)により議決権行使が行われる場合には、株主総会参考書類に、会社分割を行う理由、新設分割計画の内容の概要など後述する備置書面等記載事項の内容の記載も要求されます(規則90条)。
2 種類株主総会決議
分割会社の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときはその種類株主による種類株主総会の特別決議が必要となります(322条1項10号、324条2項4号)。定款による排除も可能で、実務上排除している例が多く見受けられます。
3 簡易分割
新設分割により承継会社に承継させる資産の帳簿価格の合計額が、分割会社の総資産額の5分の1を超えない場合には株主総会決議は不要です(805条)。「総資産額」の算定については規則207条に定めがあります。
【純資産額の算定】
算定基準日(新設分割計画を作成した日)における①から⑧の合計額から⑨の額を減じて得た額
➀ 資本金の額
➁ 資本準備金の額
➂ 利益準備金の額
➃ 法446条に規定する剰余金の額
➄ 最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、新設分割株式会社の成立の日)における評価・換算差額等に係る額
➅ 新株予約権の帳簿価額
➆ 最終事業年度の末日において負債の部に計上した額
➇ 最終事業年度の末日後に吸収合併、吸収分割による他の会社の事業に係る権利義務の承継又は他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部の譲受けをしたときは、これらの行為により承継又は譲受けをした負債の額
➈ 自己株式及び自己新株予約権の帳簿価額の合計額