第1 株式交換の手続
株式交換の手続きは、以下の通りの流れで行われます。
本稿では、株式交換の手続のうち、株式交換契約、株式交換完全子会社及び株式交換完全親会社における株主総会による承認について説明いたします。
第2 株式交換契約
1 株式交換契約において定めるべき事項
株式交換をするときは、当事会社は株式交換契約を締結しなければなりません(767条)。
株式交換契約においては、次の事項を定める必要があります(768条1項)。
① 株式交換完全子会社及び株式交換完全親会社の商号および住所
② 株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等について次に掲げる事項
イ 株式交換完全親会社株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては株式の種類および種類毎の数)またはその数の算定方法並びに株式交換完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項
ロ 株式交換完全親会社の社債であるときは、当該社債の種類および種類毎の各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 株式交換完全親会社の新株予約権であるときは、当該新株予約権の内容および数またはその算定方法
ニ 株式交換完全親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容および数若しくは額又はこれらの算定方法
③ 株式交換完全子会社の株主に対する金銭等の割当てに関する事項
④ 株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる株式交換完全親会社の新株予約権を交付するときは次に掲げる事項
イ 株式交換完全親会社の新株予約権の交付を受ける株式交換完全子会社の新株予約権者の有する新株予約権(株式交換契約新株予約権)の内容
ロ 株式交換契約新株予約権の新株予約権者に交付される株式交換完全親会社の新株予約権の内容および数またはその算定方法
ハ 株式交換契約新株予約権の新株予約権者に交付される株式交換完全親会社の新株予約権が新株予約権付社債に付されたものであるときは、株式交換完全親会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類および種類毎の各社債の金額の合計額又はその算定方法
➄ ④の場合、株式交換契約新株予約権の新株予約権者に対する株式交換完全親会社の新株予約権の割当てに関する事項
➅ 効力発生日
2 株式交換条件
株式交換条件は、当事会社の株主にとって重大な関心事です。株式交換条件の相当性については、備置書面等における開示が義務付けられています。
もっとも、株式交換条件の不公正それ自体は株式交換の無効事由とはならないと解されています。ただし、特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な株式交換条件が決定されたときは、株式交換承認決議の取消事由となると解されています。株式交換成立後は原則として株式交換の無効事由となります。
3 割当て
株式交換完全子会社の株主・新株予約権者に対する割当てについては、株主平等原則との関係で機械的に決まります(768条3項)。もっとも、種類株式発行会社の場合には、各種類株式の株主間の割当比率の問題が生じます(768条2項)。すなわち、種類株式の株主に対しては金銭等を交付しないこともできますし、金銭等の交付について種類株式毎に異なる取扱いとすることもできます。
株式交換完全親会社が有する株式交換完全子会社株式に対しては割当てされません(768条1項3号)。この点、合併とは異なり、株式交換完全子会社が有する自己株式には割当てがされることに注意が必要です。株式交換完全子会社は相当の期間内に割り当てられた株式交換完全親会社株式を処分する必要があります(135条3項)。
4 資本及び準備金
株式交換完全親会社の株式が対価の場合は、株式交換完全親会社の資本金及び準備金に関する事項を記載する必要があります。もっとも、株式交換完全親会社において増加する資本金等の確定額を記載する必要はなく、会社計算規則39条の規定に従う旨記載することで足ります。
5 交付金株式交換・三角株式交換
合併と同様に、株式交換についても、交付金株式交換、三角株式交換が可能です。
6 株式交換契約書
株式交換契約書には、上記法定事項以外の事項が多く規定されるのが一般的です。例えば、株主総会の開催時期や、表明保証、補償、取引実行の前提条件等に関する条項が設けられることがあります。
第3 株式交換完全子会社における株式交換契約の株主総会による承認
1 株主総会特別決議
株式交換完全子会社は、株式交換契約について、効力発生日の前日までに、株主総会の承認を受ける必要があります(783条1項)。承認には特別決議を要します(309条2項12号)。総株主の同意を得て株主総会招集手続を省略すること(300条)、議決権がある株主全員の書面等による同意による株主総会決議の省略(319条1項)も可能です。
該株主総会の招集通知を書面(電磁的方法)により行う場合、招集通知に議案の概要を記載等しなければなりません(299条4項、298条1項5号、規則63条7項ワ)。
株主総会招集通知と後述する株式買取請求の通知を併せて一つの通知で行うこともできます。
また、書面(電磁的方法)により議決権行使が行われる場合には、株主総会参考書類に、株式交換を行う理由、株式交換契約の内容の概要など後述する備置書面等記載事項の内容の記載も要求されます(301条1項、規則88条)。
2 種類株主総会
株式交換会社の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときはその種類株主による種類株主総会の特別決議が必要となります(322条1項11号、324条2項4号)。定款による排除も可能で、実務上排除している例が多く見受けられます。
3 特殊決議等
株式交換完全子会社の譲渡制限株式でない株式の株主に対し譲渡制限株式等が交付される場合には、株主総会・種類株主総会の特殊決議(議決権のある株主の半数以上かつ議決権の3分の2以上の賛成)が必要となります(783条3項、309条3項2号、規則186条)。なお,譲渡制限株式等とは,譲渡制限株式及び、権利の移転または行使に債務者その他第三者の承諾を要するもの(持分会社の持分及び譲渡制限株式を除きます。)を意味します。
また、持分会社の持分等が交付される場合には、交付を受ける株主(種類株主)全員の同意が必要です(783条2項4項、規則185条)。なお「持分等」とは、持分会社の持分、完全親会社の取得条項付株式 及び、完全親会社の取得条項付新株予約権を意味します。
4 略式株式交換
株式交換完全親会社が、株式交換完全子会社の特別支配会社である場合には、株式交換完全子会社の株主総会決議は不要です(784条1項)。特別支配会社とは、その会社の総議決権の10分の9以上を所有している会社をいい、その所有には100%子会社等による間接保有も含まれます(468条1項、規則136条)。
ただし、株式交換完全子会社が公開会社であって、かつ株式交換完全子会社の株主に対し株式交換完全親会社の譲渡制限株式等が交付される場合は、株式交換完全子会社の株主総会が必要です(784条1項ただし書き)。
第4 株式交換完全親会社における株式交換契約の株主総会による承認
1 株主総会特別決議
株式交換完全親会社は、株式交換契約について、効力発生日の前日までに、株主総会の承認を受ける必要があります(795条1項)。承認には特別決議を要します(309条2項12号)。なお,総株主の同意を得て株主総会招集手続を省略すること(300条)、議決権がある株主全員の書面等による同意による株主総会決議の省略(319条1項)も可能です。
株式交換完全親会社に株式交換差損が生ずる株式交換の場合、すなわち、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に対し交付する株式交換完全親会社の株式等を除く対価の帳簿価額が株式交換完全親会社が取得する株式交換完全子会社の株式の額として法務省令で定める額を超える場合、取締役は、株主総会においてその旨を説明しなければなりません(795条2項3号)。
株式交換完全子会社の株式の額は、以下の①及び②の合計額から③の額を減じて得た額と定められています(規則195条5項)。
① 株式交換完全親株式会社が株式交換により取得する株式交換完全子会社の株式につき会計帳簿に付すべき額
② 会社計算規則第11条の規定により計上したのれんの額
③ 会社計算規則第12条の規定により計上する負債の額(株式交換完全子会社が株式交換完全親株式会社(連結配当規制適用会社に限る。)の子会社である場合にあっては、零)
当該株主総会の招集通知を書面(電磁的方法)により行う場合、招集通知に議案の概要を記載等しなければなりません(299条4項、298条1項5号、規則63条7号カ)。
株主総会招集通知と後述する株式買取請求の通知を併せて一つの通知で行うこともできます。
また、書面(電磁的方法)により議決権行使が行われる場合には、株主総会参考書類に、株式交換を行う理由、株式交換契約の内容の概要など後述する備置書面等記載事項の内容の記載も要求されます(301条、規則88条)。
2 種類株主総会
株式交換完全親会社が種類株式発行会社である場合に、株式交換完全親会社が交付する株式交換の対価が譲渡制限株式であるときは、その種類の株主の種類株主総会の特別決議も要します(795条4項3号、324条2項6号)。
また、株式交換会社の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときはその種類株主による種類株主総会の特別決議が必要となります(322条1項12号、324条2項4号)
3 略式株式交換
株式交換完全子会社が、株式交換完全親会社の特別支配会社である場合には、株式交換完全親会社の株主総会決議は不要です(796条1項)。その会社の総議決権の10分の9以上を所有している会社をいい、その所有には100%子会社等による間接保有も含まれます(468条1項、規則136条)。
ただし、株式交換完全親会社が公開会社でなく、かつ株式交換完全子会社の株主に株式交換完全親会社の譲渡制限株式が交付される場合は、株式交換完全親会社の株主総会が必要です(796条1項ただし書)。
4 簡易株式交換
①株式交換完全子会社の株主に交付する株式交換完全親会社の株式の数に一株あたり純資産の額を乗じた金額、②株式交換完全子会社の株主に交付する社債、新株予約権または新株予約権付社債の帳簿価格の合計額及び③株式交換完全子会社の株主に交付する株式等以外の財産の帳簿価額の合計額が、株式交換完全親会社の純資産の額の5分の1を超えない場合には株主総会決議は不要です(簡易株式交換・796条2項)。「純資産の額」の算定については規則196条に定めがあります。
ただし、法務省令で定める数(規則197条)の株主が、株主に対する通知・公告(797条3項4項)の日から2週間以内に株式交換に反対の意思表示をしたときは、効力発生日の前日までに、株主総会の承認を受ける必要があります(796条3項)。法務省令で定める数(規則197条)についてはM&Aにおける会社分割② - 吸収分割の手続①をご参照ください。
加えて、株式交換完全親会社に株式交換差損が生じる場合(795条2項1号2号)、及び株式交換完全親会社が公開会社でなく、かつ株式交換完全親会社の譲渡制限株式を交付する場合は、株式交換完全親会社の株主総会が必要となります(796条2項ただし書き)。