加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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M&Aにおける合併④ ― 吸収合併の手続③

第1 はじめに

 本稿では、吸収合併の手続のうち、反対株主の株式買取請求及び債権者保護手続についてご説明いたします。

  

第2 反対株主の株式買取請求

1 株主に対する、吸収合併をする旨等の通知 

 ⑴ 通知の時期

 消滅会社・存続会社は、吸収合併するときは、株主(特別支配会社を除く)に対し、吸収合併をする旨等を吸収合併の効力発生日の20日前までに通知する必要があります(785条3項、797条3項)。なお、公開会社及び株主総会決議により吸収合併を承認した場合には、通知に代わる公告でも構いません(785条4項、797条4項)。

 ⑵ 通知事項

 通知を要する事項は以下のとおりです。

ア 消滅会社

 ① 吸収合併をする旨

 ② 存続会社の商号及び住所

イ 存続会社

 ① 吸収合併をする旨

 ② 消滅会社の商号及び住所

 ③ 消滅会社が有する存続会社の株式が吸収合併により存続会社に承継される場合にはその株式に関する事項

  

2 株式買取請求権者

消滅会社または存続会社において、吸収合併に反対する株主については株式買取請求権が認められています(785条、797条)。

株式買取請求を有する株主をまとめると、次のとおりです。

 ① 吸収合併をするために株主総会決議を要する場合

以下のⅰ及びⅱの株主が株式買取請求権を有します。

ⅰ 株主総会に先立って、吸収合併に反対する旨会社に通知し、かつ、株主総会で当該吸収合併案に反対した株主

ⅱ 当該株主総会で議決権を有していない株主

 ② 株主総会決議を要しない場合

ⅰ 簡易合併

     反対株主の株式買取請求は認められていません。

ⅱ 略式合併 

     全株主(ただし、特別支配会社を除く)が株式買取請求権を有します。

なお、買取請求できる株主は吸収分割の場合と同様です。M&Aにおける合併②も併せてご参照ください。

  

3 株式買取請求の手続

 反対株主は、吸収合併の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、買取請求をする株式の数を明示して、買取りの請求をします(785条5項、797条5項)。買取請求をした株主は、会社の承諾を得ない限り、買取請求を撤回できません(785条7項、797条7項)。

 株券発行会社においては、買取請求をする株主は株券を会社に提供する必要があります(785条6項、797条6項)。

 買取請求がされると、株主と会社が協議をして価格を決定します。協議が調えば、効力発生日から60日以内に、株券があれば株券と引換えに、会社は買取請求者に対し支払うことになります(786条1項、7項、798条1項、7項)。

 効力発生日から30日以内に協議が調わない場合は、株主または会社は、その協議期間満了後30日以内に、裁判所に対し価格決定の申立をすることができます(786条2項、798条2項)。

 効力発生後60日以内にこの申立がないときは、株主は買取請求を撤回することができます(786条3項、798条3項)。

  

4 買取請求の効果

 株式買取の効果は、効力発生日に生じます(786条6項、798条6項)

 株主が価格決定の申立を行った場合、会社は裁判所が決定した価格に対して、効力発生日から60日の期間満了の日後の法定利率(改正民法施行(令和2年4月1日)後は年3分)による利息を支払う必要があります(786条4項、798条4項)。

 また、会社は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、会社が公正な価格と認める額を支払うことができます(786条5項、798条5項)。株主が弁済受領を拒絶したときは、会社は供託することができます。

 

5 新株予約権者の買取請求

 消滅会社の新株予約権者が当該新株予約権の内容として定められていた条件(236条1項8号イ)に合致する存続会社の新株予約権の交付を受ける場合には、新株予約権の買取請求をすることはできません(787条1項1号)。

 また、存続会社については買取請求権が発生しない点に注意が必要です。

 新株予約権買取請求手続等については、株式買取請求権と同様の規律が定められています(787条、788条)。

   

第4 債権者保護

1 債権者異議手続

消滅会社の一定の債権者は、異議申述期間内に、吸収合併に対して異議を述べることができます(789条1項1号)。

なお、会社法上明文の規定はありませんが、労働者は将来の労働契約上の債権を有するに過ぎないため、債権者異議手続の対象外です。

  

2 公告・催告

 ⑴ 公告・催告すべき事項・範囲

 消滅会社は、異議を述べることができる債権者が存在する場合には、公告・催告をする必要があります。具体的には、①吸収合併をする旨、②存続会社の商号および住所、③存続会社の計算書類に関する事項として法務省令に定めるもの、④債権者が一定期間内(1ヶ月を下回ることはできません。)に異議を述べられる旨を官報に公告し、かつ知れている債権者に各別に催告しなければなりません(789条)。

 ③については次の⑵のとおりです(規則188条)。

  

 ⑵ 存続会社の計算書類に関する事項として法務省令(規則188条)に定めるもの

ア 最終事業年度に係る貸借対照表又はその要旨につき、法第440条第1項又は第2項の規定により公告をしている場合は次のⅰないしⅲについての事項

 ⅰ 官報で公告をしているときは、当該官報の日付及び当該公告が掲載されている頁

 ⅱ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告をしているときは、当該日刊新聞紙の名称、日付及び当該公告が掲載されている頁

 ⅲ 電子公告により公告をしているときは、電子公告により公告すべき内容である情報について不特定多数の者がその提供を受けるために必要な事項

 

イ 最終事業年度に係る貸借対照表につき電磁的方法による開示(法第440条第3項)が行われている場合は、当該貸借対照表が開示されているホームページのURLアドレス

 

ウ 有価証券報告書提出会社である場合において、最終事業年度に係る有価証券報告書を提出している場合はその旨

 

エ 特例有限会社であるために法第440条の規定が適用されない場合はその旨

オ 最終事業年度がない場合はその旨

カ 清算株式会社である場合はその旨

キ 上記以外の場合

会社計算規則第6編第2章の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容

  

 ⑶ 公告・催告の省略

 消滅会社が、官報のほか、定款で定める日刊新聞紙または電子公告の方法により公告するとき(939条1項)は、格別の催告は不要です(789条3項)。

 公告については、株券提供公告、株式買取請求の通知に代わる公告などと併せて一つの公告を行うことができますし、消滅会社・存続会社が連名で行うこともできます。

 なお、実務上は、例えば10万円以下などの少額の債権者に対しては、各別の催告を省略するケースも見受けられます。 

  

3 異議の効果

 債権者が、異議申述期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、吸収合併を承認したものとみなされます(789条4項、799条4項)。

 一方、債権者が、異議申述期間内に異議を述べたときは、消滅会社は、当該債権者に対し、弁済し、もしくは相当の担保を提供し、または当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(789条5項、799条5項)。ただし、吸収合併により債権者を害するおそれがないときは必要ありません(789条5項ただし書、799条5項ただし書)。

M&Aにおける合併① ― 合併の意義・特徴

M&Aにおける合併② ― 吸収合併の手続①

M&Aにおける合併③ ― 吸収合併の手続②

M&Aにおける合併⑤ ― 合併の差止め・無効

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