第1 はじめに
本稿では、違法な株式移転に対する株主による株式移転差止請求制度(805条の2)及び株式移転無効の訴え(828条1項12号)についてご説明いたします。
第2 株式移転の差止め
1 制度の概要
本制度は、会社が行った株式移転に法定の差止事由がある場合に、株主が会社に対して当該事由を主張して、株式移転をやめることを請求するものです(805条の2)。
2 差止め事由(法令・定款違反)
株式移転が法令または定款に違反する場合に、株式移転完全子会社の株主が不利益を受けるおそれがあるとき、差止請求が可能となります(805条の2)。
法令違反の例は以下のとおりです。
① 株式移転計画の内容の違法
② 備置書類等の不備置・不実記載
③ 株式移転計画承認決議の瑕疵
④ 株式・新株予約権買取請求の不履行
⑤ 債権者異議手続の不履行
⑥ 株式移転完全子会社の株主に対する対価の割当ての違法
⑦ 独禁法違反等他の法令違反
など
3 仮処分
実務上、会社を債務者として、株式移転差止請求権を被保全権利とする仮処分によって行われます。
第3 株式移転の無効
1 制度の概要
株式移転の無効は、訴えによってのみ主張することができます(828条1項12号)。
提訴期間は、株式移転の効力発生日から6箇月以内に制限されています。
提訴権者は、効力発生日において当事会社の株主、取締役、執行役、監査役(会計監査に限定した者を除く)、清算人であった者、株式移転設立完全親会社の株主、取締役、執行役、監査役(会計監査に限定した者を除く)、清算人、破産管財人および株式移転について承認しなかった債権者です(828条2項12号)。この債権者とは、債権者異議手続において異議を述べた債権者に加え、必要とされる各別の催告を受けなかった債権者が含まれます。
被告として、株式移転の当事会社の双方を訴える必要があります(固有必要的共同訴訟・834条12号)。
管轄は被告会社の本店所在地の地方裁判所(835条1項)です。
悪意の株主・債権者の担保提供、弁論の併合、悪意・重過失ある敗訴原告の損害賠償責任についても規定されています(836条、837条、846条)。
2 無効事由
差止事由である法令違反行為と同様ですが、差止めについては株主が不利益を受けるおそれとの要件がありましたが、無効についてはそのような要件はありません。法令違反の影響の重大性、差止請求の機会の有無等から、事案ごとに判断されるとされています(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』957頁、895頁)。
また、差止仮処分に違反する株式移転については無効と考えられています。
なお、株式移転無効の訴えと、その前提となる株主総会決議の無効確認・不存在確認・取消の訴え(以下「決議取消しの訴え等」といいます。)との関係については、①株式移転の効力発生前においては、株式移転無効の訴えにより争うことはできず、決議取消し等の訴えによる必要があり、他方、②株式移転の効力発生後は、決議取消し等の訴えにより争うことはできなくなり、株式移転無効の訴えによる必要がある(吸収説)ものと解されています。
もっとも,近時は,株式移転の効力発生後も,決議取消しの訴え等は無効の訴えに吸収されずに存続するという見解(併存説)も有力に主張されています(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』373頁)。
3 判決の効力
株式移転の無効の判決が確定すると、その効力は第三者に対しても及びます(対世効・838条)。
一方、判決の遡及効は認められません(839条)。
株式移転が無効とされた場合、旧完全親会社は,解散に準じて清算されることになります(475条3号)。また、旧完全親会社が株式移転の対価として旧完全親会社の株式を交付したときは、無効判決確定時の当該旧完全親会社株式の株主に対し、旧完全親会社株式の交付を受けた者が有していた旧完全子会社株式を交付しなければなりません(844条1項)。