加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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M&Aにおける株式移転④ - 株式移転の手続③

第1 はじめに

 本稿では,反対株主の株式買取請求,新株予約権者の買取請求及び債権者保護手続について説明いたします。

   

第2 反対株主の株式買取請求

1 株主に対する,株式移転をする旨の通知

 ⑴ 通知の時期・方法

 株式移転完全子会社は,株主に対し,株式移転をする旨等を株式移転計画承認の特別決議の日から2週間以内に通知する必要があります(806条3項)。

   かかる通知に代えて公告を行うこともできます(同4項)。

   

 ⑵ 通知事項

   通知・公告を要する事項は次のとおりです。

 ① 株式移転をする旨

 ② 共同株式移転の場合には,他の完全子会社の商号及び住所

 ③ 完全親会社の商号及び住所

  

2 株式買取請求権

 株式移転完全子会社において、株式移転に反対する株主については株式買取請求権が認められています(806条)。

 株式買取請求権を有する株主をまとめると次のとおりです。

 ① 株式移転をするために株主総会決議を要する場合

ⅰ 株主総会に先立って株式移転に反対する旨を会社に対して通知し、かつ、株主総会において実際に株式移転に反対した株主

ⅱ 当該株主総会で議決権を有していない株主

  

 ② 株主総会決議を要しない場合

 簡易手続や略式手続は株式移転には存在しないため,会社分割(M&Aにおける会社分割③ ― 吸収分割の手続②)や合併(M&Aにおける合併④ ― 吸収合併の手続③)と異なり,このような場合を想定する必要はありません。

   

3 買取請求手続

 反対株主は、吸収合併の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、買取請求をする株式の数を明示して、買取りの請求をします(806条5項)。買取請求をした株主は、会社の承諾を得ない限り、買取請求を撤回できません(806条7項)。

 株券発行会社においては、買取請求をする株主は株券を会社に提供する必要があります(806条6項)。

 買取請求がされると、株主と会社が協議をして価格を決定します。協議が調えば、効力発生日から60日以内に、株券があれば株券と引換えに、会社は買取請求者に対し支払うことになります(807条1項、7項)。

 効力発生日から30日以内に協議が調わない場合は、株主または会社は、その協議期間満了後30日以内に、裁判所に対し価格決定の申立をすることができます(807条2項)。

 効力発生後60日以内にこの申立がないときは、株主は買取請求を撤回することができます(807条3項)。

   

4 買取請求の効果 

 株式買取の効果は、株式移転設立完全親会社成立の日に生じます(807条6項)。

 株主が価格決定の申立を行った場合、会社は裁判所が決定した価格に対して、設立会社成立の日から60日の期間満了の日後、法定利率による利息を支払う必要があります(807条4項)。会社は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、会社が公正な価格と認める額を支払うことができ(807条5項),株主が弁済受領を拒絶したときは、会社は供託することができます。

  

第3 新株予約権者の買取請求

 株式移転完全子会社の新株予約権については、以下の場合に、新株予約権買取請求権が発生します(808条1項3号)。

① 株式移転完全子会社の新株予約権に代わり株式移転設立完全親会社の新株予約権が交付されるもの(株式移転計画新株予約権)。ただし、株式移転完全子会社の新株予約権発行時にその権利内容として定められていた条件に合致していた場合は除く

② 新株予約権の内容として株式移転の際にそれに代わる株式移転設立完全親会社の新株予約権が交付される旨が定められている(236条1項8号)にもかかわらず当該株式移転においてその取扱いがされないもの

 新株予約権買取請求手続等については、株式買取請求権と同様の規律が定められています(808条、809条)。

  

第4 債権者保護

1 債権者異議手続

 株式移転について、債権者が異議を述べることができるのは、株式移転完全子会社の株式移転計画新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合に限定されています(810条1項3号)。

   

2 公告・催告

 ⑴ 公告・催告すべき事項・範囲

 株式移転完全子会社は、異議を述べることができる債権者が存在する場合には、公告・催告をする必要があります。具体的には、①株式移転をする旨、②他の株式移転完全子会社及び株式移転完全親会社の商号および住所、③株式移転完全子会社の計算書類に関する事項として法務省令に定めるもの、④債権者が一定期間内(1ヶ月を下回ることはできません。)に異議を述べられる旨を官報に公告し、かつ知れている債権者に各別に催告しなければなりません(810条2項)。

 ③については次の⑵のとおりです(規則208条)。

 ⑵ 株式移転完全子会社の計算書類に関する事項として法務省令に定めるもの

ア 最終事業年度に係る貸借対照表又はその要旨につき、440条1項又は2項の規定により公告をしている場合は次のⅰないしⅲについての事項

ⅰ 官報で公告をしているときは、当該官報の日付及び当該公告が掲載されている頁

ⅱ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告をしているときは、当該日刊新聞紙の名称、日付及び当該公告が掲載されている頁

ⅲ 電子公告により公告をしているときは、電子公告により公告すべき内容である情報について不特定多数の者がその提供を受けるために必要な事項

イ 最終事業年度に係る貸借対照表につき電磁的方法による開示(第440条3項)が行われている場合は、当該貸借対照表が開示されているホームページのURLアドレス

ウ 有価証券報告書提出会社である場合において、最終事業年度に係る有価証券報告書を提出している場合はその旨

エ 特例有限会社であるために440条の規定が適用されない場合はその旨

オ 最終事業年度がない場合はその旨

カ 清算株式会社である場合はその旨

キ 上記以外の場合は会社計算規則第6編第2章の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容

 

3 異議の効果

 債権者が、異議申述期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、株式移転を承認したものとみなされます(810条4項)。

 一方、債権者が、異議申述期間内に異議を述べたときは、株式移転完全子会社は、当該債権者に対し、弁済し、もしくは相当の担保を提供し、または当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(810条5項)。ただし、株式移転により債権者を害するおそれがないときは必要ありません(同項ただし書)。

M&Aにおける株式移転① ― 株式移転の意義・特徴

M&Aにおける株式移転② ― 株式移転の手続①

M&Aにおける株式移転③ - 株式移転の手続②

M&Aにおける株式移転⑤ ― 株式移転の効力

M&Aにおける株式移転⑥ ― 株式移転の差止め・無効

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