第1 株式移転の意義
1 株式移転とは
株式移転とは、既存の株式会社の全株式を、手続中に設立される他の株式会社に移転させ、前者の株主が後者の株主となる会社の行為をいいます(774条)。前者を完全子会社(株式移転完全子会社)、後者を完全親会社(株式移転設立完全親会社)とする完全親子会社関係を創設する機能を有します。
なお、株式移転設立完全親会社は、株式会社でなければなりません。
2社以上の既存の株式会社の株主の有する全株式が、手続中に新設される他の株式会社に移転され、当該既存の株式会社の株主が完全親会社の株主になる形態(共同株式移転)もあります。
2 合併との比較
共同株式移転と合併は、他社との経営統合という意味で、機能的に類似します。もっとも、吸収合併の場合、一方が存続会社、一方が消滅会社となるのに対し、共同株式移転の場合はいずれも子会社となる点が異なります。
株式移転は、合併との比較において、従業員の給与体系など社内規定の統一の必要がない点や法人格が残る点でメリットがあると言われています。
第1段階として、共同株式移転による持株会社の元での経営統合、第2段階として、合併するというケースもあります。
3 株式交換との比較
株式移転と株式交換は、完全親子関係を創設させるという点で機能的に類似します。株式交換では、既存の会社が完全親会社になるのに対し、株式移転は新たに設立された会社が完全親会社になるという違いがあります。
4 会社分割との比較
完全親子関係を創設する手法として、「抜け殻方式」による新設分割がありますが、新設分割の手続によると財産を移転しなければならない点や許認可を新たに申請しなければならない点で不利益があるとされています。
第2 株式移転のメリット・デメリット
1 メリット
⑴ 買収資金が不要であること
株式移転設立完全親会社は、買収の対価として新株を発行すれば足りるため、買収資金が必要となりません。
⑵ 株主の個別の同意が不要であること
株式移転においては、完全子会社となる株主の個別同意が必要とならないため、株式移転完全子会社の株主の3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を強制的に廃除して100%子会社化することが可能となります。
⑶ 早急な経営統合の必要性がないこと
株式移転はあくまで株式の承継ですので、親会社と子会社、並びに共同株式移転の場合における子会社同士の法人格は異なります。そのため、早急な経営統合を行う必要はありません。
2 デメリット
⑴ 会社法上の厳格な手続を経る必要があること
株式移転は組織再編行為ですので、株主総会特別決議、書類の備置・閲覧、反対株主の株式買取請求、債権者保護手続等の厳格な手続を踏む必要があります。
⑵ 株価が下落する可能性
株式移転設立完全親会社が設立されることによって、管理コストが増加することを市場が嫌い、株価が下落することがあります。
M&Aにおける株式移転⑤ ― 株式移転の効力