契約書類の電子化にあたっては、書面の保存を求める法律の存在についても意識されなければなりません。本稿では、書面の保存に関する法律として、電子帳簿保存法及びe-文書法を紹介いたします。
1 電子帳簿保存法
契約書類を電子化する場合、法人税法上の契約書類の保存義務(法人税法施行規則59条1項3号)との関係で、電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)の要件を満たす必要があります。
同法は、税法上の帳簿や領収書等の国税関係帳簿及び契約書、見積書等の契約文書の授受を電磁的に行った場合の当該契約書、見積書等の保存について定めるものです。
契約書を電子化して取引を行う場合、電子文書の契約の記載は「取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項」(電子帳簿保存法2条6号)に該当するため、プリントアウトした紙を保存するといった物理的保存のほか、以下の①~④の要件をいずれも満たすことによって電磁的に保存することが認められています(同法10条)。
① 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(同法施行規則8条、3条5項7号、同条1項3号イ)
② 電子計算機等の操作説明書を備え付け、速やかに出力可能とすること(見読性の確保。同規則8条、3条1項4号)
③ 磁的記録の記録事項の検索をすることができる機能(検索性)の確保
④ 以下のいずれかの措置をとること
ⅰ タイムスタンプを付すとともに、当該取引データの保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと(規則8条1項2号)
ⅱ 当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規定を定め、当該規程に沿った運用を行うこと(規則8条1項2号)
規程の例は、国税庁作成の「電子帳簿保存法一問一答」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0020002-072_5.pdfに掲載されています。
2 e-文書法
e-文書法とは、2005年に施行された、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(通則法)と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(整備法)の総称です。
e-文書法では、各法令において書面の保存等が必要とされている部分については、個別の条文がなくとも電磁的方法(通則法1条)によることができ、書面の作成や、保存方法は主務省令に従えば足りると定めています(通則法3条1項、4条1項)。例えば厚生労働省の所管する法令については、「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」が定められています。
したがいまして、省令の要件を満たす限りにおいて、たとえば紙媒体で作成された文書をスキャンする等の方法で電子化し、これを保存することでも、個別の法律上の保存義務を充足することになります。(なお、e-文書法は、電磁記録による保存の容認(通則法3条)を定めるほか、電磁的記録による作成、縦覧等及び交付等を容認し、これらにより行われた電磁的記録による保存等については、個別法令に規定する書面により行われたものとみなし、本来の書面による保存等に対し適用される規定と同じ個別法令の規定を適用することを定めています(通則法4条から6条))。
保存・作成等の方法の具体的な要件については省令に定められており、見読性(文書の内容が必要に応じ、直ちに表示または出力できること)を要求するものが多いといえます。もっとも、個別の法令によってはより厳格な要件(完全性(経年劣化等による消失や変化および人為的な改ざんを防止すること)、機密性(情報への不正なアクセスを防止すること)、検索性(必要に応じて検索できる機能を有すること))が規定されることがあります。
電磁的方法によって文書を保存する場合には、保存義務の根拠となる法令及び省令に照らして、当該要件を満たすことが求められることに注意が必要です。内閣官房IT担当室は、その一覧表(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/others/syourei.pdf)を作成していますので、参考としてご紹介いたします。
弁護士 林 征成